ペンギンの美質――「白い砂のアクアトープ」19話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
夢の共演が幸せを運ぶ「白い砂のアクアトープ」。19話では風花のアイドル時代の後輩・城居ルカが撮影でティンガーラを訪れる。今回は彼女の悩みと、撮影対象のペンギンを絡めて考えてみたい。
 
 

白い砂のアクアトープ 第19話し「さよならハイヒール」

ペンギンの雛の密着ドキュメンタリーの撮影が決まった「アクアリウム・ティンガーラ」。撮影前日、下見のために番組撮影クルーと風花のアイドル時代の後輩・城居ルカがやってくる。後輩との再会を喜ぶ風花だったが、その場にいたディレクターの提案で、ルカと共にレポーターとして番組に出演する流れに。断ろうとする風花だったが、どこか不安げな様子のルカを見て……。
 
 

1.交雑する水族館とテレビ

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夏凜「こちら『発見!いきもの天国』の撮影クルーの皆さん。明日のテレビ撮影のための下見にいらしたの」
 
この19話では、ペンギンの雛のドキュメンタリー撮影のためアイドルのルカやマネージャー、撮影クルーがティンガーラを訪れる。彼らはもちろん本来は水族館とは関係ない人間であり、今回水族館は職員や関係者と異業種が入り交じる状態になっている。番組出演を打診された風花が難色を示すのは、こうした状況とけして無縁ではない。
 

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ディレクター「ところで、風花ちゃんにも出てもらうとかありですかねえ?」
風花「え?」

 

飼育員も番組に出ることで生き物についてより多くの情報を伝えられる。撮影クルーの提案はもっともだが、出演するのが風花となれば話は別だ。元アイドルの彼女が出演すれば飼育員とアイドルの境界が曖昧になり、彼女自身も両方が入り混じった好奇の目で見られる恐れがある。風花の出演は、飼育員とアイドルを"交雑"させる危険を秘めているのだ。
 
交雑によって本来別々のものを一緒にしてしまえば、そこには混乱も発生する。くくるが風花を過度に心配したり、それによって自分の仕事がおろそかになる恐れを諏訪副館長から指摘されるのはこの分かりやすい例と言えるだろう。
 
 

2.風花が出演するわけ

自分の出演が招く交雑を避けたい。そう考えるからこそ出演を断ろうとしていた風花だったが、ルカの悩んでいる様子を見て考えを変える。
 

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ルカ「わたし、ちょいちょいやっちゃうんです。張り切りすぎて駄目になるっていうか……一人で空回っちゃって」
 
風花の後輩であるルカは頑張り屋だがそれが空回りし、更に頑張らねばと思い詰める悪循環に陥っていた。ルカにセンターを譲ったのが風花の引退の一因になったこと、引退する際に風花が自分の分も頑張って欲しいと声をかけたことがプレッシャーとなっていたのだ。自分の頑張りと尊敬する風花の頑張りが交雑してしまっていた、と言ってもいい。
 

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後に館長のダジャレ、城居ルカ→しろいるか→白イルカに気張った反応を返して滑ってしまうのも、こうした交雑の表れなのである。ルカの元気の無さにこの悪循環を見抜いた風花は、その現状を変えるためにこそ番組への出演を決めるのだ。
 
 

3.ペンギンの美質

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ルカ「先輩、ずっと頑張ってきたじゃないですか。なのに、なのにわたしが……!」
 
風花の分も頑張らないといけない。ルカがそう思い詰めてしまった一因には、彼女の中の風花への交雑した思いがある。ティンガーラの皆と食事をした際にルカは風花によく面倒を見てもらったことを語るが、彼女の中で風花とアイドルは分かちがたく結びついているのだ。アイドルをしていた時こそ風花が最高に輝いていた時であり、自分がそれを奪ってしまった――そういう後悔が、ルカの中にはある。彼女の後悔を取り払ってあげることは、すなわち交雑の解除だ。そしてそのためには、風花はアイドルとしてではなく輝く自分を見せてやる必要がある。
 

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今回撮影されるドキュメンタリーはけして、魚への興味関心が第一で作られたものではない。ペンギンの雛の名前のお披露目だけでは弱いからプールデビューを取り上げたいというディレクターの話からも分かるように、これはあくまで視聴者からの人気を得るのを第一としたもの。だから人気者のアイドルと人気者のペンギンを掛け合わせて企画されているのであり、今回のペンギンは概念的にはアイドルと極めて近いものだ。撮影クルーやルカのペンギンの雛を見る目がどこかアイドル(ルカ自身)を見る目に似ているのも当然のことだろう。
そんな水族館のアイドル・ペンギンの雛が怖がってなかなかプールに飛び込めないのを、風花は優しく見守る。ルカや撮影クルーがハラハラしながら見守る中、信じて寄り添って最後に背中を押す。そんな後押しを受けて、ペンギンの雛は無事プールに飛び込むことができた。そこにいたのはけして元アイドルではなく、夢破れてでもなく飼育員となった一人の少女だった。
 

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マネージャー「風花、ほんとに飼育員になったのね」
知夢「はい、ペンギンチームの自慢の仲間です」

 

ルカは知る。自分が見ていた風花の輝きは、今もけして損なわれてなどいないと。カッコいいのは「アイドル・宮沢風花」ではなく宮沢風花という人間自身なのだと。それこそは、彼女が囚われていた交雑からの解放であった。
 

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ルカ「かっこいいなあ……」
 
感動に涙ぐむルカの姿を、カメラは逃すことなく捉える。涙の理由をおそらく、撮影クルーは知ることはない。視聴者も含め、あくまでこれはペンギンのプールデビューに対する涙として誤解されるだろう。だが、この誤解はさしたる問題ではない。風花に対してであろうがペンギンに対してであろうが、しばしば空回りするものでもあろうが、こうして涙できる美質こそはファンが彼女に励まされる理由なのだから。
 

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風花「わたし、この仕事が好きみたい」
 
南アフリカのケープ地方を生息地とするケープペンギンは、一般的なイメージと異なり寒いところに住む必要がない。風花やルカの美質=ペンギンもまた、異なる場所であっても生き生きと泳いでいくのである。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープの19話レビューでした。遅くなりましてすみません。ペンギンを何に仮託して捉えるかや今回のくくるの行動の示すところなど小ネタは色々拾えたのですがなかなかまとまらず。今回の問題を大雑把に「交雑」として解釈した後も、じゃあその後の解決についてどう考えるか……と悩みに悩む羽目になりました。本来もう叶うはずのなかった共演がなされている点などは前回から引き続きの要素と言えるかしらん。副題からは結構重めな話になるのかと思ってましたが、風花の強さをみくびってました。
 

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©projectティンガーラ
空也「いや、イケメン枠ならそっちの方が……」
薫「わたしが何?」

 

かわいい(かわいい)。
 
 

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