お宝は時の鍵――「ルパン三世 PART6」5話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
時の針を動かす「ルパン三世 PART6」。推理作家・芦辺拓をゲスト脚本に招いた5話ではなんと昭和初期を舞台に移しての騒動が描かれる。2話構成の前編から見えてくるのは、お宝やルパン三世とは何なのかという問いかけだ。
 
 

ルパン三世 PART6 第5話「帝都は泥棒の夢を見る 前篇」

「一体これはどうなってんだ!?」なぜかルパンが降り立ったのは、昭和初期の帝都東京。そこでルパンは、銭形そっくりの警部・波越に追い回される。ルパンを救ったのは、これまた不二子そっくりの女盗賊・黒蜥蜴。彼らは皆一様に、ルパンのことを「黄金仮面」と呼ぶのだった……。幻のような異世界で、ルパンは果たして何を盗む!?
 

1.ルパンの陥った危機

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
この5話は開始早々、前置きもなく昭和初期へと飛ばされるルパン三世の姿から始まる。光の中でなにやら巨大な装置と出会う場面は描かれるが、ルパンが直前まで何をしていたのかといったことは一切描かれない。ルパン自身も分かっていない。過去はぶつりと途切れている。そして、途切れているのはけしてこれだけではない。
 

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ルパン「いったいこりゃどうなってんだあ?」
 
タイムスリップしたルパンは「ルパン三世」として扱われず、また振る舞うことを許されない。銭形そっくりの波越警部には黄金仮面と呼ばれるし、不二子そっくりの美女はあくまでも女賊・黒蜥蜴。相棒のはずの次元もここでは大道寺機関なる組織の少佐で、彼は容赦なくルパンに銃を向けてくる。途切れているのはルパンがこれまで何をしていたかだけでなく、彼を彼たらしめるあらゆる要素だ。一言で言えば、今回ルパンはアイデンティティ・クライシスに陥っているのである。
 
 

2.ルパン三世ルパン三世たらしめるもの

時代も違う。立場も違う。仲間もいない。黒蜥蜴と大道寺大佐の手から辛くも逃げ出したルパンだが、今のままの彼には存在意義がない。そんな彼を救ったのは、ニュース映画で目にした黒蜥蜴の言っていた大元帝国のお宝であった。
 

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ルパン「俺は確かに俺、ルパン三世に間違いないが、ここが昭和初期の帝都東京なのも確からしい。じゃあなんで俺はこんなとこにいるんだ?」
 
「じゃあなんで俺はこんなとこにいるんだ?」……この言葉には二通りの意味が見出だせる。1つ目はもちろん「何がきっかけでここにいるか」、タイムスリップの原因への疑問。そして2つ目は「何のために・・・・・ここにいるか」、すなわち自分がここにいる理由、存在意義への疑問である。厳重な警備で運び出されるお宝を見て沸き立つルパンの心は、後者の疑問に対する答えとして極めて明瞭であった。
 

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ルパン「どうやらこの妙な世界でも、俺に盗まれるのを待ってるお宝があるらしいなあ?」
 
泥棒であること。時代も立場も違えば仲間もいない状況でも、それこそはルパン三世ルパン三世たらしめるものなのだ。
 
 

3.時を司る者は世界を制す

ルパン三世とは何者か?タイムスリップによって危機を迎えた彼のアイデンティティは、お宝に狙いを定めることによって回復した。では今度は続いて、お宝とはなんなのかについていささか欲張った見解を書いてみたい。
 

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今回のお宝は大元帝国の順帝トゴン・チムールの作らせた大時計だ。彼の代に元は明軍に敗れ祖先の地モンゴルへ追いやられたが、この大時計は王家の証として護り伝えられていった。この大時計は、玉座を追われたトゴン・ティムールとその子孫がそれでも自らは王だと主張させてくれる宝だったのである。ここで注目したいのは、大時計がなぜ王家の証であるかの説明だ。
 

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璃子「この大時計だけは王家の証として護り伝えられてきたのです。『時を司る者は世界を制す』という教えの下でね」
 
『時を司る者は世界を制す』……含蓄のある言葉だ。日本でも平成、令和の元号を発表した小渕恵三菅義偉は後に首相になったし、劇中でも時を司った者は物事を有利に進めている。黄金仮面の名に呼応するように現れる名探偵・明智小五郎によるルパンの行動の先読みや偽電報は未来や過去を覗き見たり改変するようなものだし、ルパンの方でも時間で変わる信号を拳銃で操作したり過去のはずの新聞の写真をテレビジョン装置に映すことでまんまと黒蜥蜴達を騙している。時を動かすことができる人間は、その時々で王の座についているのだ。そして、時が動いているのはけしてここだけではない。
 
 

4.お宝は時の鍵

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この5話には、欠かすべからざる登場人物として2人の女性が登場する。社長令嬢ながら自ら内蒙古を冒険して大時計を発見した重富璃子と、彼女をお嬢様と呼び慕う少女サラントヤだ*1
 

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サラントヤは別に、もともと瑠璃子と一緒にいたわけではない。その出自は大時計を何百年も護り修理・調整してきた一族にあり、瑠璃子に請われて協力し行動を共にするようになったものだった。
 

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璃子「それなら、うちと一緒に日本に来て助けになって頂戴!うちは瑠璃子、あんた、お名前は?」
サラントヤ「……サラントヤ」

 

璃子が誘った時、直前まで止まっていた大時計はサラントヤの操作によって音を立てて時を刻んでいる。時間が動き出している。これはもちろん、サラントヤの時が動き出した比喩であろう。大時計を護り修理・調整する使命は数百年変わることなく、つまりそこには変化がなかった。サラントヤのその止まっていた時計の針を動かした――時を司った者こそは瑠璃子であった。その瞬間、サラントヤにとって瑠璃子は自分の世界を制する王となったのだ。
 

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サラントヤにとって瑠璃子は、自分の時計の針を動かしてくれるかけがえのない存在だ。しかしそうやって時計の針を動かすことは、一面では使命を受け継いできた父祖への裏切りでもある。重富家のデパートで展示される大時計を見てサラントヤが表情を曇らせるのはおそらく、使命の対象を見世物にしてしまった後ろめたさによるものなのだろう。だから彼女は閉店時間の後もデパートから出てこない。人気がなくマネキンが展示される暗闇のデパートは擬似的に時間の止まった空間であり、そここそが自分のいるべき場所だったのではとサラントヤは思い悩んでしまうのである。
 

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脱出しても行くあてもなかったルパンにとって、大時計は再び自分の時間を刻んでくれるものだった。既に先にも書いたように、サラントヤにとって瑠璃子は、使命で止まっていた自分の時計の針を動かしてくれるものだった。
『時を司る者は世界を制す』という伝えはあらためて名言であろう。誰かの時計を動かすものは、その誰かにとって世界に匹敵する重みを持つものになる。誰かの時間を司ってしまう鍵、それこそがお宝なのだ*2
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期5話のレビューでした。いやー、考えるのが大変だった。『時を司る者は世界を制す』をルパンや明智の行動に当てはめるのは早々に浮かんだのですが、それだけでは説明できる部分が少な過ぎて。ルパンの「じゃあなんで俺はこんなとこにいるんだ?」への疑問を彼やサラントヤのアイデンティティに結びつけるまでウンウン唸りながら視聴を繰り返す羽目になりました。ラストに五ェ門が出てましたが、これ彼にとっても瑠璃子が「お宝」になってたりしないだろうな……あとサラントヤかわいい。
舞台が違うが故にルパンと銭形(波越)以外は立場もいつもと一致しないこの前後編、結末が楽しみです。サラントヤに幸せになってほしい。かわいい。
 
 

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*1:サラントヤの外見は中性的で断言が難しい部分があるが、一般に「月の光」を意味する女性名であることや彼女にネグリジェで接する瑠璃子に肉体関係の気配が無い点から"少女"として扱う

*2:首から下げた鍵がサラントヤの胸の位置にあるのは必然であろう