偽るほどに本物――「ラブライブ!スーパースター!!」4話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
星々集う「ラブライブ!スーパースター!!」。4話の中心となるのは平安名すみれ。かつて実際に芸能界にいた彼女の目線は、スクールアイドルに対する新たな視点を与えてくれる。すみれの加入は、本作に何をもたらしているのだろう?
 
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第4話「街角ギャラクシー☆彡」

代々木スクールアイドルフェスで、惜しくも1位を逃した「クーカー」。しかし、新人特別賞を受賞してSNSのフォロワーも増え、理事長からスクールアイドル活動の継続を許可される。しかし、恋の表情は不満げだ。一方、クーカーをきっかけにスクールアイドルに興味を持った平安名すみれは、今度こそショウビジネス界で主役を飾るべく、スクールアイドル同好会に加入する。しかし、センターを誰にするかという話になり――。
 

1.すみれの抱えるねじれ

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
これまでスクールアイドルを知らなかったすみれは、情報を集めた結果こう結論する。「要するにアマチュアみたいなものね」……スクールアイドル評としては禁句だが、芸能界にいた彼女には確かにそれを口にする資格がある。ショウビジネス、いわば「本物」の世界で生きてきた彼女にとって、スクールアイドルが「偽物」に見えてしまうのは当然のことだ。自分がセンターになって当然と考えるのは、自信というより本物としての自負によるものであろう。
 

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すみれ「わたしね、小さい頃ずっといろんなオーディション受けてたの。主役に憧れて」
 
ただ、すみれの認識はそれだけの単純なものではない。彼女がスクールアイドルをやってみようと考えたのは、アマチュアだろうが「真ん中で輝きたい」渇望を満たしてくれるのは変わらなかったからだ。その望みこそは彼女の真ん中にある、「本物」の望みだったからだ。つまりすみれは本物(ショウビジネス)vs偽物(アマチュア)の図式に囚われている一方、逆に偽物であるはずのアマチュアの中に本物の望みを見出してもいる。本物と偽物の図式が、彼女の中ではねじれているのだ。
 

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すみれ「いいえ、今回のことで分かった。わたしはさ、そういう星の下に生まれているの。どんなに頑張っても、真ん中で頑張ることはできない」
 
ねじれているが故にすみれはアマチュア(偽物)扱いしたスクールアイドルでもセンターにこだわり、そこでセンターになれないことを自分の(本物の)運命として受け止める。彼女はスクールアイドルを過小評価しているようでその実、大きく評価してもいる。彼女の心にあるねじれの解消は、はなはだもって難しい。
 
 

2.すみれのキャラクター像とそれがもたらすもの

平安名すみれを悩ませるねじれに救いをもたらすのは何か? その答えを探るには、彼女のキャラクター像に少し踏み込む必要がある。
スポ根的なドラマの一方で頓狂なほどコミカルな描写にも富む「ラブライブ!」シリーズだが、この4話は特にその傾向が強い。寸劇じみていると言ってもいいが、その理由は中心人物のすみれによるところが大きい。
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
・スカウトを期待しての鼻クリーム→高速目配せや記憶を消す呪いの儀式で見せる大げささ
・センター奪取計画やスカウト狙いが失敗した時のオーバーなリアクション
・「~ったら~」や「ギャラクシー!」といった口癖
 
もとよりアニメのキャラクターとして個性付けされているかのん達だが、一際それがはなはだしいすみれはちょっとした行動が寸劇じみたものになる。寸劇じみているとはすなわち「偽物」じみているということだ。実際、空回りの寸劇を続ける前半のすみれの行動はスクールアイドルに興味のある人間を偽る=偽物になることから生じてもいる。本物を自負……いや、渇望する彼女がもっとも偽物じみているのは皮肉と言う他ない。
 
 

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しかし、そんな偽物のすみれの姿にもかのんは「本物」を見つけ出した。コミカルで身勝手な行動の奥には挫折があり、そこにはかのんが心底悩んだのと同じ、「本物」の悩みが確かにあったことを。そして自分はスクールアイドル自体に興味はないと装うすみれが、街頭で見た映像を思わず真似してしまう姿を。
平安名すみれという少女は難しい。本物を志向しながら偽物じみていて、同時に偽物の(偽悪的な)態度の中に繊細な本心が秘められている。彼女のそのねじれをどうにかするには、本心を隠したまま本心の通り行動できる・・・・・・・・・・・・・・・・・・、偽りの題目がなければならない。偽物でなければ、彼女を救うことはできない。
 

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かのん「平安名すみれさん。わたくし、こういう者です」
 
だからかのんは、再びすみれを誘うにあたって徹底して偽物になる。スカウトを演じ、センターを奪いに来てほしいと題目を与え、契約金は無いのとワガママに問われてもそれに付き合う。全ては寸劇であり、偽物だ。そして彼女が契約金として用意したのは、すみれがずっと付けていたのと同じお守りであった。
 

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可可「あ!おんなじですね」
 
すみれはかのんの差し出したお守りは効かないという。つまり「偽物」だと言う。同じお守りを付けてきた自分の願いが叶っていないからだ。けれどかのんは、諦めなければ願いはこれから叶うのかもしれないと言う。「本物」か「偽物」かまだ分からないと言う。その揺らぎこそは、本物と偽物の間を気難しく漂うすみれにとって希望となるものであった。
  
 

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すみれ「今日からわたしが教えてあげる、本物のショウビジネスの世界を!ギャラクシー!」

 

再びスクールアイドル同好会に参加を決めたすみれは、本物のショウビジネスの世界を教えてあげると宣言する。本物のショウビジネス――そもそも、ショウビジネスとは偽りを見せるもののはずだ。そこにあるのは偽物で、しかし本物同様あるいはそれを超える輝きを持ってこそショウビジネスは本物となる。単にリアルなだけでなく、はっきり偽物でなければその輝きは生まれない。すみれの経歴と言動は、その「偽物」を際立たせるための強力な武器になるだろう。
平安名すみれの加入は、アマチュアじみた(偽物じみた)スクールアイドルをそのまま本物のショウビジネスに変えていくためのドラマなのである。
 
 

感想

というわけで「ラブライブ!スーパースター!!」の4話レビューでした。思いついたことがちょっととっちらかってしまっている感もありますが、伝えられていますでしょうか。すみれ、なんというかツンデレという言葉が生まれる前のツンデレ感ありますね。素直になれないところに愛おしさを感じてしまう。
さてさて、次回はサニーパッションが再登場するようですがどんな絡み方をするのでしょう。楽しみです。
 
 

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