飛躍する少女――「境界戦機」6話レビュー&感想

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.
戦場を風が舞う「境界戦機」。6話では紫々部シオンの駆るメイレス・レイキが登場する。その驚愕の性能が示すところは何か?
 
 

境界戦機 第6話「旅路」

1.地続きの人間

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ガシン「コントロールモジュールが焼き付いてる。砂でも入ったか」
 
アモウ達は今回、ケンブとジョウガンの故障により戦闘はおろかメイレスでの移動もままならない状態に陥る。生身で行動せざるを得ない中で強調されるのは、彼らが「地続きの人間」であることだ。
 

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ガイ「ハッキングした携帯端末を通じて安全な場所まで誘導する!」
 
テクノロジーの発達などで、人間ができることは過去とは比較にならないほど増えた。大量のものを高速で運んだり、高度な情報処理が可能になったり……本作でも自律思考型AIの力でアモウ達は様々な無茶を可能にしてきた。だが、それはあくまで外的なものだ。けして人間自体が進化・進歩したわけではない。
 

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アモウ・ガシン「俺は臭くない!」
 
人間自体が進化・進歩したわけではないことは今回、アモウ達の人間臭いやりとりに顕著に見つけることができる。情報を書き換えて別人になっても宿泊経験の乏しさまでは変わらないし、レジスタンスに身を投じていても自分の体臭は気になる。まともな食事を食べれば頬をほころばせるし、自分の子供っぽさを指摘されればむくれもする。
食べ物の好き嫌いも対人経験の少なさも含め、こうした描写は、アモウ達がけして精神まで鋼のヒーローではなく私達普通の人間と地続きの存在である証と言えるだろう。
 
 

2.安定と束縛

時代や立場や場所が違っても、人間の本質は地続きでさほど変わらない。これは喜ばしいと同時にもどかしいことだ。
 

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協力者「久々に胸がスカッとしたねえ!報われた気がしたよ、期待してるぞ」
 
例えば協力者から故障した部品の代替品を受け取りに行ったアモウは、前回自分が切った啖呵をその協力者も聞いていたことを知る。距離こそ離れていてもあの日の出来事はここと地続きになっている。細かく言えば協力者がレジスタンス専任ではなく表の仕事を持っていることや、部品が純正品でなくとも代替品としては機能すること、協力者の地道な活動合ってこそ八咫烏が戦えていることなども地続きの関係と言えるだろう。これらの地続きは基本、喜ばしい。
 

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サイモン「なんたって我々は、圧政から日本人を守るという大義名分を得たんだ。多少やり過ぎても、今なら全部アジア軍のせいにできる」
 
だが一方で、地続きは制約や不手際、悪影響ももたらす。今回は市街地でオセアニア連合とアジア自由貿易協商の戦闘が行われるが、これは前回アモウが不正を暴き協商に国際的な非難の声が高まった結果起きたもの――地続きだ。その後の戦闘の経過にしても、市民の命を軽く扱うのは攻めてきたオセアニアも守る協商も地続きで変わらないし、ガイとケイがいかにてきぱき避難誘導をしようと人間は安全な場所へワープできるわけではない。こうしたマイナス面もまた、間違いなく地続きの関係がもたらしたものである。
 
 

3.飛躍する少女

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サイモン「飛んだ!?」
 
地続きに縛られている限り、人は安心と引き換えに制約も受ける。ならそこから逃れるためには、概念としては「飛べば」良い。今回新たに登場するメイレス・レイキはその概念を体現してみせている。
 

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ナユタ「この俺に感謝しろ、死ぬほど感謝しろそして服従を誓え!一生アンジェロ様の下僕として生きていきますとなあ!」
ガシン「バカか、こいつ」
ガイ「思考プログラムがぶっ壊れてやがんな」

 

レイキの特徴は跳躍力と飛翔能力にある。川を飛び越え空を飛び、オセアニアも協商も両成敗と切り倒していくその様は、両軍が見ているマップ上では地形などあってなきが如しもの。飛躍したものだ。
またレイキの自立思考型AIにしても、芝居がかった話し方をする上にイタリア紳士アンジェロを自称するなどその性格はガイやケイ以上に"ぶっ飛んで"いる。今回のレイキの活躍は、地続きの枷を断ち切る翼なのだ。
 

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ただ、飛躍することは同時に、安心や安定から外れるトレードオフの関係にある。レイキから降り立って突然泣き出すパイロット・紫々部シオンの思考は、少なくとも現時点の我々からすれば飛躍していて理解しがたい。圧倒的な性能にしてもこの終わり方にしても、シオン達の登場は物語をひどく不安定にしている。
 
シオンの登場は果たして、アモウ達に飛躍をもたらすのか。あるいはアモウ達こそが、彼女が代償として失っている安定をもたらす存在なのか。3人(+3体+3機)の出会いは、とてもスリリングな可能性に満ちているのである。
 
 

感想

というわけで境界戦機の6話レビューでした。アバンで喋ってシオンが本格登場、と思いきやその後はラストで泣き出すのみという展開にびっくり。不安定という意味では確かにこの上ないかも……
 
今回は地続きというワードを使ってみましたが、破綻寸前になって分割統治されてる割に豊かに暮らして見えるという悪評も本作と現代の「地続き」っぽさではあり、案外今後も使える概念、なのか? ちょっと覚えておこうと思います。
さてさて、北米軍とゴーストが再登場する次回はどんな展開が待ち構えているのでしょうね。
 
 

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