遠く宇宙の君――「月とライカと吸血姫」10話レビュー&感想

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
明暗分かれる「月とライカと吸血姫」。10話では遂にただ一人の宇宙飛行士が選ばれる。しかし、彼が飛ぶべき宇宙は一つだけなのだろうか?
 
 

月とライカと吸血姫 第10話「冷たい春」

たった1日だけ休暇が取れたレフはイリナと夜の街に出る。映画を見たり、湖畔で手作り料理を食べたり、つかの間の逢瀬は急速に二人の距離を近づける。しかしイリナは、心ひそかにレフとの哀しい別れを予感していた……。
 

1.近づいたから離れるもの

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
今回の前半描かれるのはレフとイリナのデートだ。一緒に映画を見たり、手作りの料理を食べたりと仲睦まじいやりとりが描かれ、二人の距離は「近づいて」いく。遂にはレフは自らの首筋をイリナに噛んで血を吸ってほしいとまで考えるが――バスの音を聞きつけたイリナはレフから離れ、距離を「置こうと」する。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
イリナ「一緒にいるの、見られたくないでしょ」
 
イリナはレフに恋をしている。当初は優しさも嘘だろうと警戒していた彼女は、もはや他の誰にも見せない表情をレフには見せるようになった。だが、だからこそイリナはレフから離れようとする。迫害される立場の自分が一緒にいれば、それはレフの未来に影を落とすかもしれないからだ。近づいたからこそ離れようとする関係もまた、世界には確かに存在している。
 
 

2.遠く宇宙の君

何かに近づくとは動くことであり、それは逆に見れば他の何かから離れること。今回レフは着々と宇宙飛行士に近づいていくわけだから、当然それは他のものから離れていくことにもなる。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
リュドミラ「あなた達は打ち上げ前も後もこの街で暮らしているって……そういうことになってるのよ」
 
ロケットの打ち上げを間近に控えた候補生達はサングラードへ移動し撮影までされるが、それは公式的には彼らはサングラードで生活していることになっているからだ。実際に訓練した閉鎖都市ライカ44は世間に公表されないから、宇宙飛行士に近づけば近づくほど候補生はライカ44から離れなければならない。人類史に残る人間が、暗部に関わっているなどあってはならない。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
イリナ(あれは……レフ?……レフ!?……レフ!)
 
宇宙飛行士は共和国の英雄であり、燦然と輝く光に照らされる存在だ。しかし、光に近づけば暗闇からは離れることになる。イリナはもう以前のようにレフに話しかけることは許されないし、製図局で働くとのレフへの説明も嘘で彼女はほとんど存在そのものが闇に秘匿される状況にある。「明暗が分かれる」という言い方があるが、レフとイリナははっきり明暗に分けられてしまったのだ(広場でレフに駆け寄ろうとする際、レフのいる方向が明るいのは象徴的だ)。
 

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© 牧野圭祐小学館/「月とライカと吸血姫」製作委員会
イリナは一人夜空を見上げ、星空にレフの姿を幻視する。それは同じ大地に立つはずの二人が、海を隔てるよりも遙か彼方に離れている証明だ。そう、いまやレフとイリナは宇宙ほどに遠く隔てられている。二人が再会できるとしたら、レフが開拓すべき未踏の宇宙があるとしたら、その宇宙はきっとイリナと共にこそあるのだ。
 
 

感想

というわけで月とライカと吸血姫の10話レビューでした。一転、織姫と彦星を思わせる状態。今回の記事の題はよっぽど「宇宙よりも遠い場所」にしようと思ったのですが、未見の人間が使うのは躊躇われるしレフが飛ぶべき場所はやっぱり宇宙なんだしと考え思いとどまりました。まあ、仮に本当に記事の題にしちゃうとどっちの作品について書いているのかぱっと見では意味不明ですし……
 
さて、光だけ持って生まれたようなレフはいかにして宇宙の暗闇に手を伸ばすのか。残り2話です。
 
 

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