固定と束縛――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」4話レビュー&感想

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
目覚めの「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。4話ではジョンガリ・Aとの激闘が描かれる。その意外な結末は、徐倫達の置かれた状況そのものだ。
 
 
数年ぶりに再会した父・承太郎から、すべてはDIOの元部下であるジョンガリ・Aによって仕組まれた事件だったと聞かされた徐倫。承太郎の話に戸惑う暇もなく、ジョンガリ・Aのスタンド「マンハッタン・トランスファー」が徐倫を襲撃する。
 

1.信頼できる固定とは

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
ジョースターの一族への復讐を誓い徐倫達を襲う男、ジョンガリ・A。杖に偽装したライフル銃で男子監から女子監への狙撃をやってのける脅威のスナイパーは劇中、印象的な台詞を発している。
 

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ジョンガリ・A「筋肉は信用できない。皮膚が風に晒される時、筋肉はストレスを感じ微妙な伸縮を繰り返す。それは肉体ではコントロールできない動きだ」
ジョンガリ・A「ライフルは骨で支える。骨は地面の確かさを感じ、銃は地面と一体化する。それは信用できる固定だ」

 

彼は銃を筋肉で支えようとしない。些細な刺激に反応するそれによる支えは見かけ上のものに過ぎず、本当の意味で固定できていないという。また彼はほとんど盲目の身ながらライフルの薬莢でハエを潰す芸当も披露してみせるが、これはハエが気まぐれにではなく見えない臭いや空気の流れに従って飛ぶのを読んでのことだ。この言葉はスナイパーらしい含蓄であり、そして更に深い意味を持つ。彼は、生命や世界は目に見えない法則によって"固定"されていると言っているのだ。
 

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ジョンガリ・A「我が心の支えを奪った復讐には、決着をつけなくてはならないッ!」
 
ジョンガリ・Aは崇拝していたDIOが20年前に承太郎に倒された恨みを忘れず、ジョースターの血統にトドメを刺してやっと自分の人生が始まるとまで言う。なぜそこまで拘泥するのか?それは彼が言うように、DIOの存在が心の支えだったからだ。目に見えず、しかし自分にとって「信用できる固定」だったからだ。復讐者ジョンガリ・Aの盲目は、目に見えない支えを"見失った"心と連動しているのである。
 
 

2.目に見えない道をたどって

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生命や世界は目に見えない法則によって固定されている。前回書いたようにジョジョの伝統の闇の継承者であるジョンガリ・Aが示した決まりは、当然光の継承者である徐倫にも当てはまる。彼女が心の支えとするものはいわゆる主人公性、"ジョジョらしさ"だ。
 

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徐倫「違うわ。追っていったのよ、ドアの外へあの子を」
 
謎の少年に隠し通路から逃げるよう言われた徐倫は、しかし姿を消したジョンガリ・Aのスタンド「マンハッタン・トランスファー」が今度は少年を狙っていると判断し逃走ではなく救出を選ぶ。これは本来馬鹿げた判断だ。ジョンガリ・Aが少年に狙いを移した確証はないし、そもそも徐倫は少年が何者なのか全く知らない。現実と理性を重んじる人間なら、迷わず目に見える隠し通路から逃げているだろう。しかし彼女はそうしない。
 

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徐倫「信じられないけどここにいる。そこらへんの公園にいるような子供で、知ったこっちゃないただの赤の他人なのよ。でもすがるようにあたしの手を握ったの。そしてその体温は、あたしのことを労る感じもした。」
 
そのへんの公園にいるようなただの、赤の他人のはずの子供が自分を救おうとしてくれた。常識なら存在すら怪しまれるほどのその手の体温に、自分を労る感じもあった。そんな相手を見捨てることは彼女の名前の一部である"倫"に……"人の守るべき道"に反する。徐倫は、目に見えないその道が支えと知っているからこそ少年の救出に向かうのだ。
 

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徐倫「自分の運気は読めなかったみたいね」
 
かくて再び巻き起こる徐倫とジョンガリ・Aの激突は、当然の帰結として目に見えない道を巡る戦いになる。窓もない地下であっても換気扇の隙間に弾道を見出すジョンガリ・Aに対し、徐倫は見えないガスによる気流の変化で必中の狙いを無効化する。ストーン・フリーの糸に捕えたマンハッタン・トランスファーに拳を叩き込み、戦いは決着した……はずだった。
 
 

3.固定と束縛

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徐倫「あたし何かを見ている!いや、見させられている!」
 
ジョンガリ・Aを撃破した徐倫は改めて少年から話を聞こうとするが、彼女の前には奇妙な現象が頻発する。少年は再び姿を消し、遠い男子監から狙撃していたはずのジョンガリ・Aが近くに再出現。追ってきた父・承太郎とは話が噛み合わず、彼や自分から銃傷が消えている。再び倒したジョンガリ・Aはいつのまにか射殺されたはずの看守になっていて、しかもやはり彼も傷を負っていない……全ての辻褄が合わない。彼女が"見ている"全てがおかしい。これは信用できる現実ではない。
目に見えるものが信用できる支えではないと気付いた徐倫は、自分が夢を見ていたことに気付く。どこからが夢で、どこまでが現実だったのか?一つ一つ確認していく。
 

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徐倫「あたし達はこの面会室に入った時から罠にかかって夢を見させられていた。ゆっくりと、大蛇の胃袋の中に飲み込まれたみたいに溶かされながら……!」
 
ジョンガリ・Aが自分を罠にはめたのは現実で、面会を止めようとした少年も実在する。マンハッタン・トランスファーとの戦いは幻覚、面会室から出たのも幻覚。確かなのは、面会室に入った時点で自分達はスタンド攻撃をかけられ眠りながら溶かされていたこと。それが目に見えない「信頼できる固定」であった。
 

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徐倫「糸が!数cmも出せないッ!」
 
「信頼できる固定」……それは見方を変えれば束縛ともなるものだ。大蛇の胃袋のように徐倫達を飲み込んだ敵のスタンド攻撃は、目覚めようとも徐倫がそこから逃れることを許さない。しかし目覚めたなら、抗わねば道は開けない。
ジョジョの奇妙な冒険は、5部で主人公たちは運命の「眠れる奴隷」であってほしいという答えを示した。運命を変えられずとも、目覚めることでそれに抗うことはできると。ならば相手を眠りに誘い動けなくするこのスタンド攻撃は、人を眠らせ従わせる運命と同質のものだ。
徐倫は目覚めた。では、彼女はいかにして抗うのだろう?
 
 

感想

というわけでジョジョ6部アニメの4話レビューでした。今回も手間取りました。ジョンガリ・Aのウンチクが使えそうだというのは当初から頭にあったのですが、徐倫が少年を助けようとするのは「信頼できない支え」では?と考えが止まってしまいまして。こうして書いたように組み替えるまで視聴を繰り返す羽目に。そしてこうやって解釈すると、救出を誓う徐倫が涙が出そうなくらい格好いい……!
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
原作では話の途中の部分で区切られたのに当初は首を傾げましたが、こうやってみると抗いの象徴としてとてもいいところで終わったのではないかと思います。次回の展開からも目が離せません。
 
 

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