ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第3話「面会人 その①」
(公式サイトあらすじより)
1.分解と結合
グェスとの戦いで自分のスタンド「ストーン・フリー」を使いこなせるようになった徐倫。自分の体から糸を伸ばすこのスタンドの能力は、糸の形の時は遠くまで行けるがパワーは弱くてダメージも受けやすく、固まって立体になれば強くなるが逆に届くのは2m程度というもの。彼女のスタンドは、分解と結合によってその性質を変えるスタンドなのだ。そして、分解と結合によって思わぬものに姿を変えるのはストーン・フリーだけではない。
徐倫「おい待てよ、大げさだな」グェス「そうですかね、あいつも最初はたったの1ドルだった」
分解と結合による性質の変化は万物に及ぶ。電話中の女囚に頼まれ徐倫が1ドルを貸すやりとりから始まる騒動は、それを分かりやすく示してくれている。
手持ちが足りなく電話が切れそうだから、部屋に取りに行くまでちょっと貸してほしい……公衆電話が次々撤去される現在では同じ場面に出くわすことはほぼないだろうが、同じようなことを頼まれ方をすればいいよいいよと貸してあげる人は多いだろう。だが、こと刑務所ではそれは命取りになることを徐倫はグェスに教えられる。
女囚「それよりアンタ、もう10ドル貸してくんないかなあ。そうすりゃシャバのダチに電話して金持ってきてもらえるからさ、な、持ってんだろ?貸してよ」
金を借りた女性は、部屋に戻ってもいっかな返す様子を見せない。しかしはした金であっても、放置すれば徐倫は貸した金を取り立てられない人間と認定される。「たった1ドルも取り立てられない女」は「もっとたくさんの金をせびっても構わない女」として"結合"され、刑務所中から体も心もたかられるようになってしまう。「たかが1ドル」は、分解・結合によって変わる物事を一面的にしか見られていない迂闊さの現れなのだ。
分解と結合の罠にはめられたなら、こちらもそれを利用すれば抜け出すことはできる。徐倫は硬貨を削りカスに"分解"して下剤に変え、貸した金に加えてトイレの順番代*1を上乗せ徴収することに成功した。同じようにたかられていた女囚に救いの手を差し伸べるところも含めて爽快なエピソードだが、しょせんこれは一般人相手の話だ。彼女が立ち向かうべきは、この分解と結合の法則がもっと複雑に入り組んだところにある。
2.みそっかすとジョジョ・オブ・ジョジョ
承太郎「徐倫、母さんに預けておいたペンダントは受け取ったか?」
面会人が現れたと聞き、てっきり母だとばかり思い会いに行った徐倫は、そこで意外な男の姿を見る。空条承太郎、かつて自分が逮捕された時も会いに来てくれなかった薄情者としか思えない父親。面会に行けば辛い目に遭うと謎の少年に制止されてもなお徐倫が面会室へ向かったのは相手が愛しい母だとばかり思っていたからだが、実際は顔も見たくない父だと知って彼女は激怒する。
徐倫「これであたしは当分懲罰房行きだ!お前と知ってたらここには来なかった!」
面会人が承太郎と知ってわざわざ恨みのある艦首に暴行、自ら懲罰房に行こうとする徐倫の姿からは相当な嫌悪が伺えるが、実際彼女と承太郎の立場は極めて対照的だ。
かたや4部の仗助や5部のジョルノと違いスタンドが自然には発現せず、犯罪者にまで落とされた徐倫。
例えるなら徐倫はジョースター家のみそっかす、承太郎はジョジョ・オブ・ジョジョ。そう、ジョジョらしさをストーン・フリーの能力よろしく糸の状態まで分解、あるいは逆に立体として結合させればこの相反する親子になる。そしてストーン・フリーの糸と立体が共に一長一短であるように、相反するものは正反対でありながら似た形質を取る場合がある。
3.ジレンマの牢獄
承太郎「全てはこの男が仕組んだものだ」
相反するものは正反対でありながら似た形質を持つ。これを見せてくれるのが承太郎と徐倫を襲う今回の敵、男囚のジョンガリ・Aだ。元軍人にして名狙撃手であった彼は同時にDIO(ディオ)の狂信的な部下でもあり、彼を殺したジョースター家への復讐のため徐倫を罠にかけてこの刑務所へ収監させたのだった。
承太郎「人の心に何かを伝えるというのは素晴らしいことだ。だが時としてカスが残る。恨みというカスがな」
承太郎は継承というものの素晴らしさを謳いつつ、同時に負の継承も存在することを語る。承太郎がジョジョを代表する主人公であるならDIOはジョジョを代表する敵役であり、ならば彼を殺された恨みに燃えるジョンガリ・Aは血こそ繋がらずともDIOの息子のようなものだ。白内障で視力が低下しながらも優れた周辺察知能力を持つ彼がズボンの前後だけは間違えてしまうのは、彼がジョースターの継承の反転的存在だという現れでもあるのだろう。
承太郎「銃は分解できる。細かな部品にすればどんなものにも仕込める。面会に来る部下が監視に賄賂を渡せば、調べもせず中に持ち込めるだろう。ちょっとずつ、少しずつな……」
徐倫がそうしたように、ジョンガリ・Aもまた分解と結合を駆使する。囚人なら持てないはずの銃も分解すれば刑務所に持ち込めるし、狙撃手としての実力とスタンド能力を結合させれば男子監から女子監へすら銃撃が可能になる。
一方的な攻撃を受ける徐倫達は「動けば狙われる、動かなければ倒せない」ジレンマに陥るわけだが、ジレンマというのは一長一短から生まれるものだ。ストーン・フリーが糸の状態では力が弱く、立体では遠くまで行けないように。継承がこれまで称賛されてきたジョジョの精神だけでなく、DIOへの狂信から恨みというカスを生んでいるように。相反する性質を生み出す分解と結合は、突破口であると同時にジレンマの元でもある。
徐倫は、ジョジョは、ジョンガリ・Aという個人以上にシリーズの歴史が生み出すジレンマの牢獄に立ち向かわなければならない。ストーン・フリーに鉄格子が壊せないように、それはきっとみそっかすやジョジョ・オブ・ジョジョの力だけでは果たせないものなのだ。
感想
というわけでストーンオーシャンの3話レビューでした。ジレンマの牢獄を鍵に書こうと決めたもののそれを書く上で「分解と結合」が上手く噛み合わせられず、結局いつものように時間がかかってしまいました。しかしこうやって見るとキャラクターの構図がすごくよくできてるのが面白いな、6部……
それにしても徐倫がママに会いたいって言った時のエンポリオの心情、今考えると想像するだけで辛くなります。ハードな人生送ってるのに人に優しくできるこの子、平伏するほど人間ができてる。あとジョンガリ・Aのスタンドの下にぶら下がってるの、あれ見た目通り鍵の扱いでいいんだとSEを聞いてクスッとなったり。
放送後に3部の配信CMが流れるの、あまりによくできてると膝を叩いた3話でした。次回も楽しみです。
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みそっかすとジョジョ・オブ・ジョジョ――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」3話レビュー&感想https://t.co/mcBwHg5Wn5
— 闇鍋はにわ (@livewire891) January 22, 2022
ストーン・フリーの性質を承太郎と徐倫の親子に当てはめて考えてみる。#jojo_anime#ジョジョの奇妙な冒険 #ストーンオーシャン #アニメとおどろう
*1:刑務所内で電話の順番が売買されているのを"分解"応用しているのがまた面白い