ヒーローの条件――「境界戦機」14話レビュー&感想

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©2021 SUNRISE BEYOND INC.
再動の「境界戦機」。14話では8ヶ月の間の変化とガシン達の苦境が描かれる。13話で境界線上に消えたアモウは、いかにして今回ヒーローとして舞い戻ったのだろう?
 
 

境界戦機 第14話「8ヶ月後」

 

1.境界線の性質

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4つの経済圏が分割統治する状態となっていた本作の日本は、13話から14話の8ヶ月の間に大きく様変わりしていた。自律思考型AIの開発に成功した北米同盟が他勢力から抜きん出た勢力の獲得に成功し、分割統治の境界線を日々動かすようになっていたのだ。そしてこの境界線の動きは力によるものであるから、実際にそこに暮らす人々の意志などお構いなしだ。劇中では多くの避難民が発生していると語られるが、彼らはつまり境界線を勝手に動かされ、またそれに追従することのできなかった人達なのだと言える。
 

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自分の意志によらず境界線の外側、あるいは内側に押し込められた人というのは悲惨だ。これは別に国境に限った話ではなく、戦争の起きていない場所でも日々そうした人は生まれている。災害で住む場所を奪われた人、性別を理由にこっそり試験結果を減点された人、金銭的な理由で様々な機会を得られない人……境界線は人々を分かち、排除する。日本解放を目差すガシン達のレジスタンス組織・八咫烏が敵勢力の人間であっても手を差し伸べたり、劣勢に追い込まれても誰一人見捨てまいとするのは、こうした境界線の冷たさを知っているからこそなのだろう。そして今回彼らが対峙する敵は、境界線の性質を悪用する狡知に長けている。
 
 

2.トニーが悪役たる所以

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トニー「自律思考型AIとやらが投入されたおかげで、有人機が前線に出る機会も増えた。心ゆくまで味わい尽くしたいじゃないか……だろう?」
 
八咫烏を追い込む北米同盟の士官、トニー・ブランクは卑劣な男だ。避難民をレジスタンスのところに逃げるよう誘導したり、その中に買収した人間を潜り込ませたり……こうした造形は「悪役」として非常に分かりやすい。だが同時に描かれているのは、彼が人の心理を読むのを得意とした人間でもあるということだ。
 

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トニー「君の人生はこの選択で決まる。支配される側の人間のままで終わるか、それとも支配する側の人間になるか……」
 
劇中、トニーは言葉巧みに人の弱みに付け込んでいる。貧しい暮らしに疲れた避難民に北米同盟の国籍提供を持ちかけスパイとして利用し始末したり、その非道を割り切れない部下にお前も既に同罪なんだと黙らせたり……これらが効果的に作用しているのは、トニーの言葉が彼らの感じる「境界線」への意識に巧みに働きかけているからであろう。
 
境界線からはじき出された避難民にはこちら側に来る方法があると誘惑し、部下がその倫理観で境界線の向こう側に行こうとすれば自分の側へ引き戻す。戦闘においても逆転のため指揮官の自分を狙ってくるだろうと相手の思考を読み切っていた点を含め、トニーは自分と他人の境界線をいいように操る術に長けている。そしてその力を他者への共感ではなく、己の食い物にすることに使うからこそトニーはガシン達を追い詰める悪役たり得ている。彼は境界線の悪用巧者なのだ。
 
 

3.ヒーローの条件

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シオン「何もできないの……?このまま何もできないの!?」
 
他者に抜きん出た力を持ち、それによって境界線を己の好きなように動かす。トニーの優秀な悪役ぶりは、彼の所属する組織の一面をよく体現している。すなわち自律思考型AIの開発で他勢力より優位に立ち、また他勢力以上の取り締まりを行い人々を虐げるようになった北米同盟のありようは今回描かれたトニーの姿そのものだ。新たな北米同盟を体現する彼の役割は、言ってしまえばガシン達を避難民と同じ立場に貶めることにある。
 

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ガシン「それでも戦うさ。戦って生き残って、『未来の知らない誰かを守るため』に……!」
 
ガシン達のレジスタンス・八咫烏は境界線の動きに翻弄される人々を守ろうと戦い続けてきた。しかし一方、この8ヶ月は彼ら自身も境界線の動きに翻弄される時間でもあった。ゴーストとの戦いで仲間であるアモウを失い、後ろ盾のブレンゾン社とも連絡が取れなくなったことで戦力は着実に低下。敵機にも自律思考型AIが搭載されたため性能面の優位性もさほどのものとは言えなくなっている。彼らが人々を守ろうとする存在でいられる領域は、つまり境界線は他勢力同様に北米同盟に日々動かされてしまっていった。その動きにとうとう追いつかれ、ついに守る立場から守られるべき立場へ追い落とされたのがこの14話だったのである。ならば本作の主人公がすべきはもちろん、そんな彼らを守ることだ。彼らが彼らでいられるよう、境界線を引き直すことだ。
 

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突如現れ多数の敵機を撃破、状況に風穴を開けてみせた新型アメイン――死んだはずのアモウとその乗機ケンブの再登場は、誰かを守る力として極めて明示的だ。トニーが優秀な悪役ぶりを発揮していればこそ、それを圧倒的な力で打ち砕くアモウの活躍は影に対する光のような輝きを放つ。1話がそうであったように、彼が底力を発揮するのはいつも誰かを守ろうとする時だった。
 

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ヒーローには一線を画する力がある。そして、画したその一線を人々を守るために使う姿にこそ私達はヒーローの勇姿を見るのだ。
 
 

感想

というわけで境界戦機14話のレビューでした。どんなもんだろうと思いながら書き進めたらこんな感じの結論に。ガシンはアモウの代わりになろうと頑張ってましたが、やっぱり主役の座は譲れないものらしい。第2クール、視聴して自分の中に何か見つけられるといいな。
 

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ミスズの姿がだいぶ変わってましたね。OP見てて「!?」ってなってました。8ヶ月の間に何があった。
 
 

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