幸せはポッキンアイスの形――「まちカドまぞく 2丁目」6話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
満ち足りる「まちカドまぞく 2丁目」。6話では桃の姉・桜の行方が明かされシャミ子と桃の関係にも変化が訪れる。2つに折ったポッキンアイスのように、幸せは不完全なところにこそある。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第6話「夕日の誓い!まぞくたちの進む道」

10年前、桜のコアと接触していたシャミ子。その記憶を思い出すため、自身の力を使い10年前の記憶を探索することに。そこで窮地に追い込まれたシャミ子を助けたのは、探し続けていた桃の姉、千代田桜だった!果たしてシャミ子は桜と一緒に脱出することができるのか?一方、桃は悪夢からシャミ子を救うべくある行動に出る―。
 

1.程遠い完全

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桜「私のコアは、君の中に埋め込んじゃったのだ」
シャミ子「なるほどですね、わたしの中に……え?なんですとぉー!?」

 

前回のラストはシャミ子の夢の中に桜が現れるという衝撃的なものだったが、この事態にシャミ子は小躍りせんばかりに喜ぶ。夢の中に潜ったのはせいぜい桜の手がかりを見つけられればと期待してのものだったのに、まさかの本物と出会えたのだからこれは望外の喜びと言っていいだろう。だが、当然ながら世の中は全てが100点や120点の結果になるほど甘くはない。今の桜はシャミ子から少しずつ失敬した魔力を使って姿を現しているに過ぎず、なんとそのコアはシャミ子の中にあった。今のシャミ子が健康でいられるのは彼女にかけられた呪いをコアが抑えてくれているからで、故に桜はとても外に戻れるような状態ではなかったのだ。
 

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シャミ子「なるほど、武器はあっても持ち主に体力がないとジリ貧になる。まぞくおぼえた!」
 
完璧に見えるものが大きな綻びを抱えていたり、当たり前に思えるものが実は綱渡りのようなバランスの上にある。そういったことは珍しくない。例えば前回シャミ子は夢の中ではなんでも倒せる「ずるい武器」を手に入れたが無敵になったわけではなく、体力不足の彼女では敵が物量で迫ればジリ貧にならざるを得なかった。
 

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ミカン「うう……またやってしまったわ……」
 
またシャミ子の夢中遭難は桃が一時的に彼女の眷属になって追いかけたことで無事解決したが、ことはシャミ子が目を覚ませば全て終わってくれるわけではなかった。精神だけとはいえ眷属化=闇落ちした桃は弱体化を防ぐため強引な方法でそれを解除しなければならなかったし、そのために極度の緊張を強いられたミカンは呪いを発動させてしまい手伝ってくれていた小倉しおんのラボを破壊してしまう。そしてそもそも先に書いたように、今のままでは桜は現世に戻ることはできないのだ。
 

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シャミ子(桃を眷属にするには色んなものが足りない。それに皆に負担をかけたのに、桜さんのコアが返せそうにないこと桃になんて言えばいいんだろう?)
 
夢から戻ったシャミ子は自分の不足を痛感する。魔力の弱い今の自分では桜のコアを取り出すわけにはいかないし、桃を眷属にすれば彼女を弱体化させてしまう。まぞく・シャドウミストレス優子には足りないものばかりだ。……だがその力不足は、不完全さはけして災いだけを呼ばない。
 
 

2.幸せはポッキンアイスの形

力の足りない者は、不完全な者は独力で事態を解決することができない。だが、それはけして悪しきことではない。
 

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桜「私のコアを君に託す。君の命を私のコアで支えよう……どうか、健やかに」
 
例えば桜がシャミ子の体に自分のコアを埋め込んだのは、事情は不明だが彼女がひどく魔力を消耗しもはや人間の姿はおろか動物形態(猫)すら保てないほど弱っていたからこそ思い切れたことだった。呪いで弱った当時のシャミ子に対し完調状態の桜は気休め程度のことしかできていなかったのが、逆に不完全で不安定な状態になったからこそシャミ子の奥深くに潜って彼女を救うことができたのだ。
 

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桃「迎えに来たよ、シャミ子!」
 
例えば桃は今回眷属となって闇落ちした姿を披露するが、魔力の弱いシャミ子の眷属は魔法少女の時より圧倒的に弱く、そのため桃は正式な闇落ちを拒絶し続けている。この6話で彼女が闇落ちを受け入れたのはあくまで精神だけの一時的なもの――不完全なものに過ぎないからだ。完全でないからこそ、桃は闇落ちを受け入れることができる。それはリリスいわく既に精神的には闇落ちの準備が整っているが、シャミ子の前で素直に表出するには未だためらいのある桃にとって一番都合のいい形だとも言えるだろう。
 

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桃「姉がここにいることが分かった。今はそれでいい」
 
今はまだコアを返せなくとも桜の行方は分かったように、不完全であることは無価値と同義ではない。人は不完全だから誰かに助けてもらうことも、助けてあげることもできる。シャミ子も桃も完全ではないから、一人では生きていけないから、同じく不完全で一人では生きていけない互いに対して惹かれ合っている。
 

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シャミ子「わ……笑ってくれた……」
シャミ子(なんで?桜さん返せないのに……)

 

人と人は手を取り合って足りないところを補い合うといったことがよく言われるが、シャミ子と桃の関係はそうではない。二人なら完全になれるというようなものではない。シャミ子の不完全さ故に桃はシャミ子の願っていた「ニコニコ笑顔」を見せられるようになるが、その理由はシャミ子には分からない。ニコニコ笑顔が嬉しくてたまらないシャミ子の涙の理由も桃には分からない。二人のコミュニケーションは完全なものとは程遠く、けれどそこに幸せはあふれている。
 

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桃「はい、ポッキンアイスの誓い」
シャミ子「……は?なにそれ?」
桃「……やっぱり忘れて。受け取ってから忘れて!」

 

完全なものには限界がある。桃とシャミ子が最後に分け合うポッキンアイスは棒状の容器に清涼飲料水を詰めて凍らせたものだから、そのままでは、完全・・なままでは食べることができない。2つに折って、不完全にして初めて私達は口にすることができる。完全なものなどというのはもともと人間の手に、いや口に余るものでしかないのだろう。なら、私達はむしろ不完全をこそ求めるべきだ。
 

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シャミ子「もう1回!今のもう1回!」
桃「アイスが溶けるから早く食べて!」
シャミ子「お願いします、もう1回!」

 

不完全であることは救いだ。どうしても起こるであろう事故を相当に低いレベルまで危険性を下げたり、無理だと思われることに可能性を見つけることでこそ――不完全さを見つけることでこそ人の歴史は紡がれてきた。完全な幸福は手に入れようがなくとも、絶望的な完全を希望ある不完全に変えるだけで私達は幸せになれる。
人は力を合わせれば不完全を完全にできるのではない。完全を不完全にできるところにこそ、人と人が手を取り合う素晴らしさはあるのだ。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞくのアニメ2期6話レビューでした。話数としては折り返しになりますが、すごいですねこれ。目指すところが完全であれば個々の人間の弱点は弱点のままですが、不完全を目指すのなら強さにも弱さにも未来への可能性がある。何度か書いてますが悪魔的ならぬまぞく的発想……! 次回は編成の都合で1週お休みですが、後半戦はどんな話になるのか楽しみに待ちたいと思います。
 

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それにしても今週の小倉さん、めっちゃ美人。ありがとうございますありがとうございます。
 
 

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