新学期を探して――「まちカドまぞく 2丁目」11話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
学期と共に前進する「まちカドまぞく 2丁目」。11話では夏休みが終わり新学期が始まる。そして、シャミ子の新学期は学校だけに留まらない。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第11話「新学期!魔法少女の新たなる役割!」

怒涛の夏休みが終わり、ついに新学期。シャミ子たちのクラスにミカンが転入してきた。呪いの体質を受け入れてもらえるか不安だったが、あっという間にクラスに打ち解けていった。超人的身体能力により体育祭に参加できないミカンは、もっとクラスメイトと仲良くなろうと、体育祭委員として裏方で頑張ろうと意気込むが…

公式サイトあらすじより)

 

1.居場所に必要なもの

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ミカン「わたし、きちんと転校の自己紹介できるかしら。呪いの体質のこと話しても引かれないかしら……」
 
2学期が始まる11話だが、夏休みの終わりは単に以前の学校生活が戻るわけではなく変化を伴っているものだ。本作におけるそれは魔法少女にしてメインキャラクターの一人である陽夏木ミカンの転入で、冒頭の彼女はちゃんと挨拶できるかどうかや感情の動きで些細な不幸を引き起こす呪いで引かれないかを懸念している。クラスで自分の居場所ができるか心配している、と言ってもいいだろう。
 

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ミカン「ファンタジー要素ガン無視の質問ね!?」
 
とはいえ転入先の桜ヶ丘高等学校には既にシャミ子や桃といったまぞくや魔法少女が既に通っていることもあり、警戒されるのではないかというミカンの心配は全くの杞憂だった。挨拶の時の彼女は体質などについて根掘り葉掘り聞かれるつもりでいたが、実際にされる質問は目玉焼きに何をかけるかや朝から揚げ物を食べられるかなどといったバカバカしいことばかり。ミカンは最初から受け入れられていたのだ。
 

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ミカン「ごめんなさい……」
 
ゆるくて変だが懐の深い人達に囲まれ、ミカンはもっと仲良くなろうと体育祭の委員会に入る。面倒見がよく華やかな彼女はもうすっかり委員会に溶け込んでいたが――途中で発生したアクシデントがその心に影を落とす。騎馬戦のシミュレーションの際に落馬し気絶したミカンの体から呪いが発動してしまったのだ。同じく体育祭の準備を手伝っていた桃のおかげでけが人こそ出なかったが、作りかけだった看板は汚損。下校の時にはミカンは誰が見ても明らかなほどに気落ちしてしまっていた。
 

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少女「ミカンさんは悪くないよ」
少女「わたしが悪いんだよ、後ろ見ないでペンキ持ったから」
少女「わたしだって脆い騎馬で歩くから……」
杏里「ていうか頭打ったの大丈夫!? とりあえず凍ったペットボトルで冷やそうぜ、溶けなくて困ってたんだよ!」

 

ミカンのこの気落ちはけして、呪いの結果周囲を恐れさせてしまったから生まれたものではない。むしろ委員会の子達はミカンの方をこそ気遣い、一言も彼女を責めはしなかった。だが、ミカンが気落ちするのはそのように優しくしてもらえたからこそだ。優しくて大好きになった人ほど呪いで傷つける恐れがあるとなれば、自分に向けられる行為はむしろ一緒にいてはいけない理由になってしまう。
 

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ミカン「優しい人ほど、わたしに近い人ほど傷つけてしまう……」
 
この11話、ミカンは居場所を見失っている。居場所というのはけして他者に「受け入れられる」かどうかだけで決まるわけではない。そこにいる自分を「受け入れる」ことができるかどうかも居場所の成立には重要なファクターなのである。
 
 

2.新学期を探して

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暖かく受け入れてもらえるだけでは居場所は成立しない。この事実はミカンを打ちのめし、彼女はひっそりと町を立ち去ろうとまでしてしまう。だが、彼女が手に入れかけた居場所はけして周囲から用意されただけのものではなかったはずだ。ここで考えたいのが、桜ヶ丘高等学校における奇妙な決まりである。
 

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ミカン「競技に出られなくても、裏方で頑張れたら皆ともっと仲良くなれると思うの」
 
桜ヶ丘高等学校には奇妙な決まりがある。それは生徒は皆どこかの委員会に所属することになっており、またその仕事内容は生徒自身が見つけたものでも構わないことだ。「人体標本磨き委員会」「つるむらさき栽培委員会」「ゾンビ対策マニュアル作成委員会」……劇中挙げられる委員会は奇妙なものも多く、しかしそれ故に他人から言われたものではないことが伺える。そう、上記の例を挙げた生徒は自分に相応しい委員会を、"居場所"を自分で見つけているのである。ミカンの体育祭委員会加入にしても、オーバースペックな身体能力故に体育祭に参加できない魔法少女でも皆と一緒にいるべく彼女が自分で見つけ出した"居場所"だったはずだ。
 

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シャミ子「部屋どころかこれから心の中に入らせてもらうぞ! わたしがミカンさんの中に住んでいる悪魔と話をつけます!」
 
居場所は認められて住まうものであり、同時に自らの手で見つけ出すものでもある。呪いのショックでミカンが手放してしまったそれを、シャミ子は必死で繋ぎ止めようとする。繋ぎ止めるために自分にできることを――彼女もまた自分の"居場所"を見つけ出そうとする。考えた末にシャミ子が見つけたその方法とは、夢魔である己の能力でミカンの心に潜り、彼女の呪いの原因となっている「ウガルル」なる存在を説得することであった。
 

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シャミ子(弱くても、頭が悪くても、センスがなくても、この町でわたしにしかできないことがある!)
 
不思議なことや楽しいことがいっぱいあった夏休みを経たが、シャミ子の戦闘力はさほど上がったわけではない。身体能力は人間と比べても低いし、自在に変形するナントカの杖を手に入れてもそれで好き放題できるほどの魔力は持っていない。けれどだからといって彼女が何もできないことを意味しないのはこれまでの物語が描いてきた通り。
シャミ子はずっと、非力な自分にそれでもできることを、自分の居場所を見つけることで未来を切り開いてきた。その対象は大切な桃だけでなく、弱い自分を助けてくれるもっと多くの人に対して向けられるものになりつつある。彼女は今後も少しずつ前へ進みたい思いを今回心の内で語っているが、ミカンを助けることはそうした前進として申し分のないものだろう。
 

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シャミ子「とりあえず行ってみましょう!」
 
夏休みの終わりと共に、シャミ子は自分にできる新たなことを、新たな居場所を見つけつつある。これまで足を踏み入れたことの無い居場所を獲得することで、まぞくにとっての"新学期"もまた始まりの時を迎えるのだ。
 
 

感想

というわけでまちカドまぞくのアニメ2期11話レビューでした。「過ぎたるは及ばざるがごとし」とか「割れ鍋に綴じ蓋」とか考えたりもしたのですがどうもしっくり来ず、繰り返し見る中でミカンを始めとした「居場所」にフォーカスすれば書けるんじゃないかと思いつきました。
 

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
妄想桃の「桃色の時空断裂ボール」、中の人が同じなのもあって「直撃のブルーバレット」を連想してしまって困る。体育祭の設営準備に乗り気でなかった彼女が、気づけば自分の技能の居場所を見つけているところも面白かったです。さて、次回はついに最終回。まぞくらしい結末が見られるのが楽しみです。
 
 

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