夢が結ぶ実像――「まちカドまぞく 2丁目」5話レビュー&感想

©伊藤いづも・芳文社/まちカドまぞく 2丁目製作委員会
レンズが動く「まちカドまぞく 2丁目」。5話では意外な場所に意外な人物が現れる。私達の世界の問題とは、しばしばピントの問題である。
 
 

まちカドまぞく 2丁目 第5話「かちこめ!桃色のシャミ子奪還作戦!」

シャミ子に謝罪をするために吉田家までやってきた白澤店長とリコ。2人が桜と関わりがあると知ったシャミ子は、何か手がかりが見つかるかもとそのまま「喫茶あすら」でバイトを続けようとするも、桃はなぜか猛反対!「バイトNG‼就労ダメ絶対!!」そんな中、白澤店長から衝撃の事実が語られる。
 

1.合わないピント

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ナレーション「よりしろ職人の朝は早い」
 
ストーリー仕立てだがきらら作品らしく日常系の空気も色濃い本作、今回のアバンは特にコミカルだ。シャミ子のご先祖・リリスのよりしろを作る桃を職人の朝のように描いたり、シャミ子に何か恩返しをしたいが上手く伝わらない桃の様子であったり……シャミ子達の賑やかな様子は実に微笑ましい。そして同時に、ちょうどよい塩梅というのがとても難しいこともこれらの描写からは見えてくる。
 

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リリス「ありがとうなの!……やめよ、自我がグチャグチャになる!」

 

冒頭描かれるように桃の作るよりしろは時間と手間をかけて生み出されるものだが、肝心のリリスの反応はあまり素直ではない。関節の可動域が甘いだの頭身が低いだの服はハイレグがいいだの、口を開けば出てくるのは文句ばかりだ。よりしろは遠隔操作も可能だから無理やりお礼を言わせたりもできるが、それできゃぴきゃぴお礼を言うリリスの姿もいい塩梅とは言えない。
 

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桃「そういう食べたら消えるものじゃなく!」
シャミ子「なんでもって言ったのに!?」

 

また桃はシャミ子になにか欲しいものはないかと尋ねシャミ子はアイスモナカと答えるが、それは桃の聞きたい望みではない。なんでもいいと言ったのにそんな反応をされてシャミ子が困るのは当然だが、桃としては「シャミ子への恩返しになる行為ならなんでもいい」のだから物品では答えにならないのもこれまた当然だろう。
 
言葉も行動も心を全て表現しているわけではないから、受け手による塩梅に頼らざるをえない部分というのはどうしてもある。真意や本心を掴むためには私達は、相手の言葉や行動の合わさる一点を探さなければならない――つまり目にしたもののピント・・・を合わせなければならない。
 
 

2.実像と虚像

ピントを合わせる。これほど言うは易く、行うのが難しい行為はなかなかない。エビデンスや数字に基づき客観的な指標を集めたとしても私達の理解は歪みから逃れられないし、時にはそういった歪みが逆に突破口になり得るのは前回示された通り。
 
 

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良子「紅白首輪の猫さんの目撃情報を探せばいいんじゃないかな」
 
例えば喫茶店「あすら」の白澤店長は今回は桃の姉・桜のことを話しにシャミ子の家を訪れたが、彼女に関する直接的な話はごく限られたものに過ぎなかった。ヒントになったのはむしろ、ゆるキャラ・たまさくらちゃんのモデルとなった妖精猫という一見関係ない話の方だった。
 

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桃「以前わたしが見たものは水晶状で動きませんでした。動物形態もあるのか……」
 
また魔法少女である桃は自身の性質を知悉しており、その魔力の残滓である「コア」は動かないものだと信じて疑っていなかった。しかし白澤店長と共にシャミ子の家を訪れた狐狸精・リコによればコアは魂魄とも呼ばれ、動物の姿を取る=動くものであった。
 

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白澤店長「優子くんの夢だったのではないか?動物が喋るなんてありえない」
リコ「マスターあかんよ、鏡見るんや」

 

私達が当てにしているものや、当たり前に思っているものは案外便りにならない。蜃気楼がそうであるように、人間の目に真実らしく映るものはしばしばピントの調節で生まれた虚像に過ぎない。単なるゆるキャラ好きと思われた桃のたまさくらちゃん愛はピントを変えればそれによく似た姉恋しさの発露だったし、妖精猫ついて白澤店長が「動物が喋るなんてありえない」と指摘するのは発言だけならもっともなのだが、彼自身がバクであるのを考えると途端に話がおかしくなる。
 

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何が正しく何が間違いなのか。揺るぎないように思えるそれはピント次第で移ろうもので、ならば虚像に思えるものの中に実像が潜んでいることもあるだろう。桜を探す手がかりは現実ではなく、10年前彼女と出会った可能性のあるシャミ子の記憶の中――夢の中にこそあった。
 
 

3.夢が結ぶ実像

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シャミ子「千代田桜さんが分からなくなってきた」
白澤店長「にてたかなあ」
桃「顔が似てるんじゃなくて、パーツとか色合いが似てるの!変身した時とか!」

 

桃の姉、千代田桜は謎多い人物だ。名前こそ1期から出ていたが話に上るだけだったし、今回の白澤店長の回想でも姿は黒塗りされていて顔は分からない。主人公であるシャミ子の認識通りの状態であるとは言えるが、詰まるところ彼女の中で桜はずっとピントの合わない状態にあった。たまさくらちゃんに似ているという話は一層混乱を深めもした。
 

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桜「あなたの町の駆けつけ1本お守り桜!魔法少女千代田桜、ただいま見参!」
 
しかしシャミ子の夢の中、彼女の記憶を媒介にすることで今回ついに桜は姿を現す。これが現実なら全てが終わってしまうが、彼女が姿を現したのはあくまでまだ夢の中だ。どんな敵でも倒せる「ずるい武器」なる凶悪な代物が夢の中限定なら存在を許されるように、夢の中では現実ではありえないポイントで光が像を結ぶこともあり得る。
 

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桃「だとしても、断固助けに行きたい!」
 
手がかりどころかまさかの本人との遭遇(実は2回会ったことがあるそうだが)は桜の正体やこれまで、そして物語全体にも新たなピントの合わせ方を提示することになるだろう。事実、シャミ子が夢の中で行方不明になったことは桃の心を大きく揺さぶっている。かつて夢の中でシャミ子に助けられた気がするという、効率が悪く根拠の希薄な動機を桃の中で駆動させるきっかけとなっている。私達が現実だけで生きていないからこそ、彼女の思いは形を成そうとしているのだ。
 

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桜「妹の桃ちゃんがお世話になってます」
シャミ子「ええええええええ」

 

実像は現実の上で結ばれるとは限らない。夢にピントを合わせて結ばれる実像もまた、この世界には存在するのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版まちカドまぞくの2期5話レビューでした。帰省でもないのに結局遅延ですすみません。「言葉は素直に気持ちを表さない」「物語は実像を結ぶ時を迎えている」みたいな思いつきはあったのですが、前者では桜の登場で終わることを説明できないし後者だけでは「ズレてる方が噛み合う」がほったらかしだし……と一晩寝かせてピント合わせをすることになりました。
 

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幼少時のシャミ子の呼吸器越しの声が辛い。「刀使ノ巫女」の燕結芽なんかもそうですが、小さい子が病気でしんどい目に合ってるのは背負わなくていいものを背負わされてる感じで見ててしんどい。
 
 

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