記念日は境界線――「境界戦機」19話レビュー&感想

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
白線を引き直す「境界戦機」。19話ではまさかのアモウ達vsガイ達という事態が発生する。これは箸休めであっても脇道ではない。
 
 

境界戦機 第19話「記念日」

 

1.八咫烏vs自律思考型AI

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ディアロ「蒸発するのに30分かかるペイント弾だ」
ガイ「くっそー!ディアロの野郎か!」

 

アバンで提示されるように、19話はアモウを始めとした八咫烏の面々と自律思考型AIであるガイ達が争う回だ。北米同盟等の経済圏からの自立を目指す仲間であるはずの彼らは今回、手を取り合うどころか互いに警戒し合う関係にある。
アモウ達は極秘任務などともったいぶってガイ達を寄せ付けず、防諜さながらに厳重に秘密を守ろうとし、ガイやケイ、ナユタがあの手この手で真相に迫ろうとしても付け入らせない。芝居がかってはいるが両者は共に真剣で、この点で今回はアメインによる戦闘が行われる回となんら変わるところはない。
 

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ケイ「これだけ言っても、教えてくれないのだな……」
 
真剣さは変わらず、しかし自分達を輪の中に入れてくれない――このことはガイ達をひどく不安にさせる。どれだけ人間的な思考を備えていようと自分達はAIであり、現実にアモウ達と触れ合ったりはできないのを彼らはよく知っているからだ。アモウが嘔吐していた時も、ガイには背中をさすってやることはできなかった。自分達が常にモニターに、いや人間とAI(替えの効く道具)という境界線に遮られているのだと、ガイ達は人間達の頑なな態度に落胆せずにはおられない。はぐらかされ続けた彼らが拗ねてアメインの中に閉じこもってしまうのは、それが自分達の間にある境界線をもっとも具現化するものだとなんとなく感じ取ったからなのだろう。
 
 

2.記念日は境界線

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アモウ「確かに俺達は隠し事をしている、ゴメン。でも3人をないがしろになんかしていない、新しいAIも作ってない。3人は大切な、かけがえのない存在なんだ!」
 
人間とAIである以上、アモウ達とガイ達の間には境界線がある。これは覆しようのない事実だ。アモウもまた、自分達がガイに隠し事をしていることを認める。だが14話での再登場がそうであったように、彼には新たに境界線を引き直す力がある。そして今回が真剣さにおいて戦闘のある回と変わらない以上、その力が発揮されるのもまた常と代わりはしない。
隠し事をしているのはないがしろにしているからではないと、「3人(!)」は大切な、替えの効かない存在だとアモウは釈明する。それはガイ達が落胆した、人間と自分達AIの間の境界線を引き直す嚆矢となるものだ。そしてその本命はもちろん、アモウが発案した隠し事の正体にあった。
 

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ケイ「私達が皆と同じ空間に!?」
ナユタ「なんだこれ!?」
ガイ「アモウ、これは一体……」

 

アモウ達が隠し続けた場所、元は視聴覚室であった新本部の一室――そこに入ったガイ達は、グラスをかけたアモウ達の前で己の姿が具現化したことに驚愕する。彼らは自分がアモウ達と空間を共にできない境界線にこそ苦しんできたのだから、この状況に驚くのは当然だろう。隠し事の正体とは視聴覚室をガイ達が人間と共に過ごせるMR(ミックスドリアリティ、複合現実)空間に改装すること、そして彼らのベースプログラムが完成した今日という日に誕生日パーティを開くことであった。
 
 

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先に述べたように、人間であるアモウ達とAIであるガイ達の間には境界線がある。それは天地がひっくり返っても変えようのないことだ。けれど彼らは人間とAIであるまま、その境界線を越えることだってできる。技術で空間を共にすることも、気持ちで人間同様に誕生日を祝うこともできる。それを知ることができた今日という日はガイ達にとって、誕生日という以上に大きな意味を持つ日として記憶されるだろう。昨日までとこれからを分けることになった日として、そのメモリーに残り続けることだろう。
 

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胸に刻むべきことのあった日を目印にすることで私達は、その日を迎える度に思いを新たにできる。一つの線を越えた日なのだと、忘れずにいることができる。記念日とは、歴史の上に生きる我々が忘れるべからざる境界線なのだ。
 
 

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宇堂「……お待たせしました」
 
かくてこの日がガイ達にとって記念すべき日となる一方、八咫烏の代表である宇堂は密かに他勢力と連絡を取る。アジア軍、オセアニア軍、ユーラシア軍……境界線で隔てられ共にあるはずのない彼らが通信上とは言え席を共にするこの状況は、ガイとアモウが空間を共にした先程と軌を一にするものだ。このもう一つの"記念日"がある故に、今回の話は箸休めであっても脇道ではない。その境界線の先、彼らはいったいどんな青写真を胸に描くのだろうか?
 
 

感想

というわけで境界戦機の19話レビューでした。地味だけどMRの使い方がすごく素敵な回ですね。アモウ達がグラスをぶつける場面に手間のかかる作画の仕方をしてるのも納得……馬崎を篭絡しようとした時にケイが指摘する願望が2061年とは思えね―!とツッコミたい気持ちもありますが、これまでで一番好きな話かもしれない。さてさて、これからまた大きく変わるであろう人間関係を楽しみに次回を待ちたいと思います。
 
 

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