アンチテーゼ争奪戦――「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」2期8話レビュー&感想

次のステージへ進む「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」。2期8話では祭りの締めくくりに相応しい発見と変化が描かれる。今回は"アンチテーゼ"を巡る侑と嵐珠の物語だ。
 
 
第2回スクールアイドルフェスティバル最終日。今日は、虹ヶ咲学園の文化祭との合同開催の日。しかし、当日になっても侑が作る同好会の曲は完成していなかった。最高の曲にしなければいけないというプレッシャーのもと、考え込んでしまう侑。侑の作った曲を歌う、それだけで素敵なことだと励ます同好会メンバーの言葉に、ひとまず気持ちを落ち着かせるが……。一方で、文化祭は大盛り上がり。様々な屋台や催し物の間を縫って、フェスティバル開演の合図となるニジガク号が学園中を颯爽と進んでいく。だがゴール目前、順調かと思われたまさにその時、ニジガク号が突然ストップ。このままではフェスティバルがスタートできない……。
 

1.失いかける居場所

かすみ「なんたって今日は最終日ですからね! 気合入れていかないとですよ」
 
今回の話はスクールアイドルフェスティバル最終日、控室でのスクールアイドルのやりとりから始まる。締めの日だからとノリノリなかすみに始まり、そこへ現れライバルとしての存在感を改めて示す嵐珠や真っ向から受け止める同好会の面々などやる気に満ちた皆のやりとりは見ているこちらが楽しくなってしまうほどだが――最終ステージの楽曲が未だ完成していないという話から、焦点はこの場にいない一人の少女へ移る。高咲侑……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会所属にしてただ一人スクールアイドルではない、異色の少女へと移る。
 
嵐珠「そういえばいないわね、あの子」
 
話題に上って初めて嵐珠が気がつくように、このアバン、いやここ最近の侑の存在感はあまり強いものではなかった。1期では第1回スクールアイドルフェスティバルの発案者であり企画規模の拡大などでも手腕を発揮していたが、第2回での文化祭合同開催や他校との共催は生徒会の栞子や菜々のアイディアだったし、同好会が動く際に先頭に立つことが多いとは言え一人でテーマを背負って立っていたわけではない。嵐珠の言う「いない」とは控室にいないだとか文化祭で見かけないだとかいったレベルの話ではなく、物語における侑の居場所が消えかかっていることへの気付きなのである。
 
侑「トキメキ、トキメキ、ううう、全然出てこない……どんなに考えてもときめかないよーーっ!」
 
もちろん侑の存在はフェードアウトしてしまっているわけではなく、彼女には存在感を示すための大きな席が用意されている。フェスの最終ステージ、同好会の皆が一緒に歌える曲を作るという大役だ。しかし一方で、同好会の魅力を引き出しファンに喜ばれ、かつなぜ自分が同好会にいるのかという嵐珠の疑問への答えなど多くの役割を担ったその楽曲を侑は未だ作りあぐねている。核となる"トキメキ"を見つけられずにいる。
 
かすみ「かすみん達は、自信を持ってステージで歌います!」
 
最終日になっても曲ができていない侑に、同好会の皆は優しい。あなたの作った歌を自分達が歌えるのはそれだけで素敵なことだと受け入れ、肯定してくれる。そんな彼女達に侑が、同好会やそのファンのトキメキに応えられる曲を作ろうと考え立ち直れるのも無理はない。……ただ、それだけでは十分ではない。
 
 

2.トキメキの正体

嵐珠「お膳立てなんて最初から期待してないわ。前に言ったでしょ? わたしは与えるだけでいいって」
 
皆に支えられ、その期待に応える歌を作る。そう考え始めていた侑は、直後に強烈なカウンターを浴びることになる。それは誰あろう、彼女が同好会に所属しているのを疑問視した鐘嵐珠であった。
 
嵐珠「わたしは、わたしを知らしめるためにステージに上るんだから」
 
フェスのオープニングアクトに選ばれた彼女は、景気づけとなるはずだった仕掛けの不発にまるで動揺することなく最高のパフォーマンスを披露する。トラブルをものともしない嵐珠のライブは「スクールアイドルは与えるだけでいい」とする彼女のスタンスをこの上なく表現しており、その様に侑はトキメキを覚えずにいられない。そして重要なのは、同じ音楽科という形で侑と接触を持つようになった留学生のミアが、こうした自己表現は嵐珠だけではないと指摘してきた点だ。画面上で描かれるのは藤黄学園のライブの様子だが、この指摘はもちろん他のスクールアイドルでも同様だろう。……そう、他ならぬ虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会でも。
 
侑「わたしは、ファンのわたしはスクールアイドルのパフォーマンスや音楽だけにときめいてたんじゃなくて……歩夢、せつ菜ちゃん、しずくちゃん、愛ちゃん、果林さん、かすみちゃん、璃奈ちゃん、彼方さん、エマさん……自分を目一杯伝えようとしている皆の姿にときめいていたんだ」
 
歩夢達同好会のスクールアイドルも単に歌や踊りを見せているのではなく、それによる自己表現こそがファンの心を捉えている――ファンにトキメキを与えている。なら先程までの考えのように、彼女達の求めに応えるばかりでは侑は「スクールアイドルに与えられている」だけに過ぎない。相手が同好会であっても、これでは嵐珠の孤高のスタンスに白旗を揚げるのと何も変わらない。侑が同好会に所属する意味や居場所はなくなってしまうし、物語は同好会に嵐珠が突き付けたアンチテーゼをただ受け入れるだけに終わってしまう。そうならないために必要なのは、侑もまた与える側になることだ。
 
侑「わたしも皆に近づきたい。皆と一緒に、今ここにいるわたしを伝えたい。そうなんだ、これが私の"トキメキ"!」
 
自分が歩夢達の何にときめいていたのか突き詰め、侑は自分の中の"トキメキ"とは何かを発見する。その発見を楽曲に反映しようとする。スクールアイドル達と同様に自分を表現したい思いを楽曲に込めれば、それ自体が侑を与えられるだけでなく与える存在へと生まれ変わらせる自己表現となるのだ。この自分を表現したい思いこそは侑がスクールアイドルから感じ取り、また彼女の中からも湧き出していた"トキメキ"の正体であった。
 
 

3.アンチテーゼ争奪戦

ミアの協力もあって楽曲が完成し迎えた最終ステージ、侑は驚きの行動に出る。歩夢達と一緒にスクールアイドルになる……というわけではもちろんない。観客席の最奥にピアノを設置し、楽曲に生演奏を加えたのだ。
 
侑のピアノは歩夢達のステージの反対側にあり、彼女達からもっとも遠く離れている。しかし一方、演奏を通して繋がっている侑は歩夢達のもっとも近くにもいる。こここそが侑の存在意義であり居場所だ。同様に脚光を浴び、しかし彼女達からかけ離れた侑こそはスクールアイドルと対照的な存在ーーアンチテーゼであった。
 
同好会に所属しながらスクールアイドルではなく、けれど自分を伝えたい思いは瓜二つ。侑はその存在自体が同好会に対するアンチテーゼであり、そんな侑が所属しているが故に同好会は単一の目的のための組織になり果てずに済む。"皆の夢を叶える場所"であることができる。同好会へのアンチテーゼを掲げて登場した嵐珠に対する侑の答えとは、彼女の否定ではなくむしろ自分こそがアンチテーゼだというジンテーゼ(正-反の衝突の先にある"合")だったのだ。
 
かくて同好会の物語は更に一段高い次元へと歩を進め、第2回スクールアイドルフェスティバルは大盛況の内に幕を閉じる。しかし本作の話数はまだ後半戦を迎えたに過ぎないし、最終ステージの挨拶でも歩夢はこう言っている。次の夢はまたここから始まるのだ……と。
物語は終わっていない。どれほど素晴らしい結論を出そうと続編で主人公が悩みや問題を抱えるように、ジンテーゼは生まれた瞬間ただのテーゼになってしまうものだ。次なるアンチテーゼを生じさせ、それとぶつかるものだ。侑が導き出した(ジン)テーゼに対するアンチテーゼは誰あろうと言うべきか当然と言うべきか、彼女に答えを突き付けられた嵐珠の中に生まれていた。
 
嵐珠「ここに来た価値は十分あった。後悔は無いわ」
 
同好会へのアンチテーゼを掲げて登場した、と書いたが、嵐珠は別に同好会の面々を敵視していたわけではない。これまで描かれていたのはむしろ彼女が歩夢達のことを大好きで、それでも同好会には所属できないなんらかの理由を抱えていることだった。つまり嵐珠が表立って掲げていたアンチテーゼは実際のところ、彼女がどうにかして同好会の皆の近くにいるための方便に過ぎなかったとも言える。けれどそのアンチテーゼは今回、侑の出したジンテーゼによって過去のものにされてしまった。だから嵐珠は打ち上げに姿を現し皆を称賛した後、ひっそりと別れを告げる。彼女はもはや、虹ヶ咲学園にいる理由をこじつけることができない。この2期8話は失いかけた居場所を侑が取り戻す話であると同時に、必死に築いた居場所を嵐珠が失う話でもあった。
 
嵐珠「……バイバイ」
 
孤高のスクールアイドルという仮面にヒビが入り、嵐珠の本心はいよいよ素顔を覗かせようとしている。それは彼女が本当の意味で本作へのアンチテーゼになろうとしている兆しであり、また同好会はけして彼女を見捨てないだろう。それがいったいどんなものなのか、あるいはこれすら途中経過に過ぎないのかはまだ分からない。物語はいつだって鏡のようなアンチテーゼを必要とし、繰り返しそれとぶつかり回り続けていくものなのだ。
 
 

感想

というわけでニジガク、アニガサキの2期8話レビューでした。今回は記事名通りアンチテーゼ争奪戦という柱が最初にあり、そこから各描写がどう読めるか肉付けしていった感じですね。以前も書きましたが私がレビューを書く時に使用する弁証法的構造がまるごとそのまま物語の骨格になっている感があって、手癖で乱雑なレビューになってしまっていないかドキドキしながら書いております……
嵐珠がいったいどんな事情を抱えていて、それに同好会の面々はどのように向き合っていくのか? もはやヒロインとすら言える彼女の今後から目が離せません。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>