シールを剥がす時――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」13話レビュー&感想

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
進み続ける「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。13話ではエルメェスの事情が明かされる。スタンド「キッス」の習得は、なぜ彼女にとって復讐のライセンスなのだろうか?
 
 

ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第13話「愛と復讐のキッス その①」

サヴェジ・ガ―デン作戦の成功以後、エルメェスの姿を見かけないことが気になった徐倫は、彼女の過去を調べ始める。どうやら、彼女はある目的を果たすため、自ら刑務所に入ってきたらしい。一方、当のエルメェスは数日来ある男を監視していた。徐倫はF・F(フー・ファイターズ)とともにエルメェスに真意を尋ねるが、取りつく島もなく追い返されてしまう。
 

1.闇の中で動くもの

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徐倫「ねえ、ところでエルメェスはどこ? ここ2,3日顔を見てないんだけど」
 
長く続く「ジョジョの奇妙な冒険」、その第6部のアニメ化シーズン2にあたる本作。主人公はシリーズの顔とも言える空条承太郎の娘にして囚人・空条徐倫だが、この13話のスポットライトは仲間の一人エルメェスコステロの背景に当てられている。
 

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エルメェス(この数日間、あたしは慎重にお前のことを監視しながら待った……)
 
コンビニ強盗をしでかした純然たる犯罪者と思われていた彼女は実は、6年前に姉であるグロリアを殺したスポーツ・マックスというギャングの男囚への復讐のためわざと刑務所に収監されていた。そして興味深いのは、このスポーツ・マックスの超常の力たるスタンド「リンプ・ビズキット」が彼の行状を反映したものになっている点だ。
 

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エルメェス「敵だ徐倫、ワニがいるんだ! 見えない死骸が床上を動いているんだ!」
 
リンプ・ビズキットの能力は端的に言えば「見えないゾンビ」を生み出す力だ。スポーツ・マックスは刑務所の工作室で小鳥やワニの剥製を作っていたが同時に能力の対象ともしており、彼に襲いかかったエルメェスはこれらに反撃され苦戦を余儀なくされる。単なるゾンビであればそれはある意味ありふれたものに過ぎないが、スタンドを視認できるスタンド使いですら見ることができない不可視の敵となれば手を焼くのは無理もない。見えない暴力であることこそこのスタンドが強敵たる所以であり、そしてスポーツ・マックスのようなギャングの優位性もまたこうした不可視性にある。
 

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スポーツ・マックスが最初に登場する時間軸は本編の6年前、グロリアに殺人を目撃される場面であるが、この犯罪は昼日中には行われない。闇の中、見えない世界の中だ。
目撃者がいれば口封じをするし、その噂が知れ渡れば仮に他の目撃者を見落としても報復を恐れて通報などはしなくなる。人や物といった目に見える証拠がなければ罪に問えないから警察も動けない。実際劇中でも、通報したグロリアの口封じやその証拠隠滅を行ったスポーツ・マックスは大した罪に問われることはなく、下された判決は脱税と傷害で懲役5年とあまりに軽いものに終わった。
 

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暴力は確かに恐ろしいものだ。スポーツ・マックスが「犬みたいにじゃねー、赤ん坊みたいに」木の棒をくわえさせて頭を踏む殺害場面や、彼のゾンビがエルメェスの頸動脈を引き抜こうとする場面では痛覚がよくよく視覚化されている。しかし本当に恐ろしいのは前者の場面が最後の最後は音でしか描写されないように、何が起きたのか分かっていても見えない点にこそある。見えなければ反撃できないし、想像もむしろ恐怖をかき立てていく。
 

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見えない強さというものは、こと厄介さについては見える強さに遥かに勝っている。闇の中に生きるギャングとはつまり、懐に「見えないゾンビ」を飼っている存在だと言えるだろう。
 
 

2.エルメェスのシール

先の段ではスタンドが象徴するスポーツ・マックスの性質について触れた。続くこの段ではその対として、彼への復讐に燃えるエルメェスとスタンドの関連性について書いていきたい。
 

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エルメェス「これがあたしの能力……"キッス"」
 
劇中でも解説されるように、エルメェスのスタンド「キッス」は単純なパワーだけでなくものを増やす能力を持ったスタンドだ。彼女の体から出るシールを貼ったものは二つに増え、剥がせば一つに戻るが対象にはダメージが発生する。リスクを承知の上でなら攻防どちらにも使えるこの能力はエルメェスの窮地を幾度も救ってきたが、今回の話ではこの性質も彼女の過去と似通っていることが明かされる。
 

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今回描かれる彼女の回想は、葬儀の場面から始まる。エルメェスの母は幼い彼女を残し、この世を去っていたのだ。そして姉であるグロリアは、エルメェスの小さな手を握りながらこう宣言する。
 

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グロリア「エルメェス。今日からあたしがあんたの母親代わりよ」
 
この瞬間、エルメェスの母親は2人になった。そう、彼女は母親にシールを貼った・・・・・・・・・・のだ。グロリアがエルメェスから「姉さん」と呼ばれないのは、その存在がもはや姉ではなかったからなのだろう。グロリアはエルメェスのシールを受け入れる存在であり続けた。……そしてそれが、彼女に最悪の結末をもたらすことになる。
 

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既に書いたように、グロリアはスポーツ・マックス(の指示を受けたギャング)に殺された。彼の人殺しを通報したためだ。だが本来、彼女はそんなことをするつもりは毛頭なかった。ギャングの息のかかった薄暗い町で父とレストランを経営する身でその「見えない強さ」の恐ろしさを知らないわけはなく、報復を受けるのは目に見えていたからだ。一人ならば彼女は、貝のように口を閉じて自分の見たものについて黙り続けただろう。そう、一人ならば。
 
 

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人殺しの現場の近くにはグロリアの他に、喧嘩してその日家を飛び出していたエルメェスがいた。そして更に悪いことに、彼女はスポーツ・マックスにその存在を気付かれていた。エルメェスはこの時、母親だけでなく目撃者・・・にもシールを貼って増やしてしまっていたのだ。エルメェスが口封じされる恐れをなくすためには、自分が先んじて警察に通報しただ一人の目撃者になるしかない――シールを剥がす他ない。
 
かくてグロリアは危険を承知で通報し、覚悟した通り報復によって命を落とすこととなった。彼女の死は、シールを剥がした時に起きる破壊の性質によって暗示されていたのである。
 
 

3.シールを剥がす時

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スタンド能力スタンド使いの精神エネルギーの具現であり、故にその気質や運命の影響を大きく受ける。これまで書いたような想像ができるのはスポーツ・マックスエルメェスに限った話ではないだろう。その上で面白いのは、この二人の能力は意外に似ている部分がある点だ。
 

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スポーツ・マックスの能力は見えないゾンビを生み出すことだが、このゾンビは死体そのものを動かす能力とは少し異なっている。彼は小鳥やワニの剥製を作りそのゾンビを操っていたが、ゾンビはこれら剥製が変化したわけではない。劇中には剥製とゾンビの両方が存在し、しかもエルメェスがゾンビを破壊した際に連動して壊れたことから分かるように剥製は偽物になってしまったわけでもない。
 
リンプ・ビズキットが発動した時、世界にはゾンビとそのオリジナルの二つが存在する。そしてゾンビが消滅しオリジナルだけに戻る時、オリジナルもまた無傷ではない。こうした観点で見る時、スポーツ・マックスのスタンドはまるでエルメェスのそれを二つにしたかのように似ていると言える。実際、彼が警察の追及をかわせたのは殺人のような法的にバレてはまずい犯罪を「見えないゾンビ」に、もう一人の自分に隠すことに成功したためだ。
相手がものを二つに増やす力を悪用する相手であれば、エルメェスは二つに増えた相手を一つに戻すことで対抗できる。そう、シールを剥がしてやればいい。二つに増えたものを一つに戻し、諸共に破壊するのはもはや彼女の十八番である。
 

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エルメェス「グロリアがどんな思いをしたか、スポーツ・マックス! お前にしっかりと思い出させてやる!」
 
キッスは復讐のライセンスである、とエルメェスは言う。これは単なる上手い言い回しではなく、彼女が言うように確かに天の啓示だ。見えないゾンビの撃破は二つに増えたスポーツ・マックスを一つに戻す儀式であり、エルメェスのスタンドはそのための神具なのである。
 
 

感想

というわけでストーンオーシャンのアニメ版13話のレビューでした。今回は何を書いたらいいかなかなか決まらず苦労しました。序盤の描写からすれば「逆利用」なんかで書けそうな気がしたのですがちょっと物足りず、キッスとリンプ・ビズキットの共通点だけだとちょっと屁理屈っぽくなり……スタンドとスタンド使いの共通点を踏まえることで形にはなりましたが、序盤それなり時間を割かれている徐倫とF・Fの会話については放置することになってしまったのが悔やまれます。
 
スポーツ・マックス戦後の描写を最初に持ってきたりグロリア関連をF・Fに語らせなかったり、結構変更点のある回でした。そこから見えてくるものもあり、面白い内容だったと思います。さてさて、「ドロドロ」な話が多いこのシーズン2、いい感じに気持ち悪い描写になるのを期待してます。
 
 

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