混じりけありの春模様――「ヤマノススメ Next Summit」9話レビュー&感想

©しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ Next Summit』製作委員会
季節が重なる「ヤマノススメ Next Summit」。9話では渓流釣りと鎌倉行きが描かれる。今回あおいが知るのは、春と冬の間の時期らしい"まじりけ"だ。
 
 

ヤマノススメ Next Summit 第9話「渓流釣りって、人生?/ひなた一家と、いざ鎌倉!」

単身赴任先から帰ってきた父親に誘われて渓流釣りをするあおいとひなた。釣りに興味があるというここなも一緒だ。釣り宿のオーナーにやり方を教わるものの、なかなかつれないあおいたち。ヒキを待つ間、ここなは受験を控えた心境をあおいたちに語り出すのだった。
 

1.青羽ここなは純粋無垢にあらず

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舞「あおいちゃんも一緒に行く!?」
あおい「え?」

 

前後編ともにほのか絡みの話だった8話と打って変わって、9話はパッと見での関連性の低い話の組み合わせだ。主人公のあおいが父に誘われ渓流釣りに行くのが前編、幼なじみのひなた一家と共に鎌倉へ行くのが後編……場所としてもバラバラである。今回両者に共通点を探すならそれは、どちらもあおいが「巻き込まれて」いる点だろう。渓流釣りは料理の練習で来ていた友人のここなが乗り気で興味がないとは言えず、鎌倉行きは珍しく家にいたひなたの母が仕事のストレスを発散しにいくのに付き合わされたもので、どちらもあおいは乗り気だったわけではない。特に前半、断るに断れずひなたも渓流釣りに巻き込もうとするあおいの様子などは端的に言って"不純"である。……ただ、不純なのはけして彼女だけではない。
 

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ここな「あおいさん、楽しみですね!」
あおい「そ、そうだね。あはは……」

 

渓流釣りの話が出た際、ここなはあおいと異なり大いに関心を示した。あおいが断れなかったのは「わあ、素敵ですね!」「あおいさん、楽しみですね!」と輝くような笑顔を見せる彼女をガッカリさせられないと思ったからなのだが――当日分かったのは、ここなは実は釣り自体に興味があるわけではなかったことだった。
 

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ここな「わたし、来年高校受験なんです。でもわたしの将来ってどんなだろう?ってまだ全然イメージできてなくて。だからいざ何かを選ばなきゃいけない時のために、色んなことを経験しておいた方がいいかもって思って」
 
来年高校を受験する彼女は、将来についてイメージできていない自分を感じていた。そしてその解消には色々な経験をするのが重要だとも感じており、渓流釣りをしたいと思ったのはそのためであった。主要な登場人物の中でもっとも幼く、柔らかな雰囲気もあって天真爛漫という印象の強い彼女だが、渓流釣りの話が出た際の反応にはしっかり打算も含まれていた。輝くような笑顔は、けして純粋なものではなかったのである。そしてもちろんこれは責められるようなことではなく、あおいやひなたはむしろ彼女が真面目に将来のことを考えていることに感心させられている。今回のここなは、不純だからこそ称賛されているのだ。
 
 

2.混じりけありの春模様

私達は混じりけのない何か、純粋な何かに憧れるものだ。アイドルには(欠点の存在も含めて)完璧な存在であってほしいし、商品のキャッチコピーでも純度の高さを訴えるものは定番である。だが一方で自然界に完全な白や黒の色は無いと言われるし、他の色は三原色の組み合わせ=混ざり物に過ぎない。世の中の大半は不純であり、混ざりものだと言ってもいいだろう。だが、それは必ずしも悪いことばかりではない。
 

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舞「民家がすぐそば。これでアルプスを名乗る?」
健一「でも岩の形が面白いだろう? それにあちこちで地層を見ることができる。このあたりは昔海だったんだ」

 

例えば今回の後半であおい達が鎌倉へ出かけたのは、仕事に疲れたひなたの母・舞が気分転換に山と海の両方に行きたいと主張したからだった。つまり純粋な海や山ではなく、その混ざり物の旅行を彼女は欲したのである。そこで登った鎌倉アルプス(大平山)にしても、今は山だがかつては海であったが故に独特の地層を覗かせている。
 

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舞「絶対途中でお腹すくと思ったから!」
あおい(ひなたと同じだ。気が利いてるなあ)

 

また、あおいは舞に会ったのは久しぶりでそのテンションの高さに困惑したりもするが、次第にひなたの気質が多分に母から受け継がれたものであることに気付いていく。縞模様にえぐれた地層に虎のモノマネみたいなことをするノリの良さであったり、マイペースなようで細かなところに気を配っているところであったり……自分の知っているひなたが突然現れたような存在ではなく、両親の混ざり物であることを認識するのだ。
 

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あおい(こんなに話をしたのって久しぶりかも)
 
言葉一つとっても誰がどこで誰に言うかで意味が全く変わってくるように、世の中の大半は不純であり混ざり物である。だが、その混ざりものはしばしば私達と他者を橋渡しする機能を果たす。混ざりものだから可能性がある、と言ってもいいだろう。半日粘って1匹も釣れない日も大漁の日もある釣りには人生が重ね見られるし、そもそも釣り自体が口実で目的は誘った相手と一緒に過ごすことという場合もある。あおいにしても今回の渓流釣りで手にしたものは客観的には魚一匹に過ぎず、釣果はむしろここなに触発されて考えた将来のことであるとか、もう少し父との時間を持とうだとかいった混ざり物の方にあった。
 

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あおい(釣りの魅力はまだよく分からないけど、釣れる釣れないよりもこういう時間が大切なのかもしれない。そう思った春の一日でした)
 
純粋なものは純粋であるが故に他と交われない。だが論理も感情も捨てきれないように私達は良くも悪くも不純な混ざり物であり、だから自分以外の存在と交わることができる。冬ではないが春とも言い切れないこの9話の時季のように、まじりけの中に春の訪れは見えてくるものなのだ。
 
 

感想

というわけでヤマノススメの4期9話レビューでした。前後編をどう結べるのか初見時は首を傾げたのですが、あおいの「こうなったらひなたも巻き込んじゃえ!」をきっかけに描写を手繰り寄せていくと思いの外すんなり書くことができました。レビューでは省きましたけど「水の下や魚の気持ちを想像する」「さっきまで泳いでた魚を食べることへの躊躇いと食欲」「駅弁をハイキングで、かつシェアして」「厄除けと鬱憤晴らし」なんかも混ざり物の例に挙げられるでしょうか。こういう描写とテーマのまじりけを探すの、とても好きです。
鎌倉というとどうしても神社仏閣に目が行きがちですが、こうやって見せてもらうと大平山の方にも行ってみたくなりますね。今回も素敵な回でしたが、気づけばもう残り3話しかない……!?
 
 

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