全力のドラマに偽りなし――「吸血鬼すぐ死ぬ2」8話レビュー&感想

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
思うに任せぬ「吸血鬼すぐ死ぬ2」。8話はまるで怪獣映画のような始まりを見せるが、だからと言って別作品のようになるわけではない。今回は笑いと感動の源泉を問う話だ。
 
 

吸血鬼すぐ死ぬ2 第8話「オオ・ゼンラ/半田ンダダンダンダンダダーン/新横浜に月はまた昇るか?」

コゼンラニウムが巨大化し、新横浜を歩き回る事件が発生。
なんとか動きを止めようと試みるロナルドたちだが、攻撃を受けると防衛本能により尻がさらに巨大化してしまう。
窮地に陥るロナルドたちの前にゼンラニウムが現れ……?
公式サイトあらすじより)
 

1.笑いと感動の源泉

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吸血鬼とハンター(吸血鬼退治人)のバカバカしいトラブルが描かれることの多い本作だが、今回はかなり深刻なトラブルが発生する回だ。1本目「オオ・ゼンラ」では巨大な吸血鬼が登場して新横浜が危機に陥り、主人公であるロナルドを始めとしたハンター達が力を結集して立ち向かう。最初に「怪獣映画のよう」と評したように、シチュエーションとしては手に汗握る部分がある。……が、事態の深刻さと裏腹に本作の雰囲気はそこまで変わっていない。なにせ怪獣役を担当するのは薬物実験で巨大化した吸血鬼ゼンラニウムの眷属コゼンラニウムであり、花の生えた大きな尻が街を歩いても緊張感など生まれようがない。当初今一つ乗り気になれない仲間達にロナルドは「でもこれが仕事だしな」と語っているが、ギャップの甚だしさはいかんともし難いものがある。
 

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半田「違うんだお母さん!」
 
ギャップの甚だしさ。これはこの8話残りの2本にも共通する部分だ。2本目「半田ンダダンダンダンダダーン」では吸血鬼対策課の半田が吸血鬼・Y談おじさんの催眠術の魔の手から母を守ろうとすればするほど空回りするし、3本目「新横浜に月はまた昇るか?」ではかつて新横浜の変態吸血鬼達にいいようにやられたハンター・ミカヅキが彼らの変態攻撃にクソ真面目に対応する姿が描かれている。ギャップは笑いの元となるものだから、この点で今回は基本に忠実な話と言えるだろう。ただ、ギャップが生み出しているのは笑いだけではない。
 

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あけ美「何をしたのか知らないけど、桃をいじめないで!」
 
1本目の騒動では最終的に事態を解決したのはゼンラニウムがコゼンラを常と変わらぬように優しく抱きしめてやったことにあったし、2本目では半田は母親の前でY談催眠術をかけられてしまうも逆に母の親子愛に救われている。また3本目ではロナルドはミカヅキの吸血鬼への対処ぶりに感動し、乗り気ではなかった彼の弟子入りを受け入れようと赤裸々な本心を語っており、これらは見ている人間に笑いよりも感動を喚起するものだ。こうした描写が私達の心を動かす要因もまた、直前までのお腹を抱えるような展開の連続とのギャップにこそある。
 
ギャップは笑いも感動も生み出すことを、この8話は面白おかしく教えてくれる。だが、どうしてそんなことが起きるのだろう?
 
 

2.全力のドラマに偽りなし

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
ロナルド「成長したんだなミカヅキくん。おめでとう、君はもう新横で十分やっていけるハンターだよ!」
 
ギャップは笑いも感動も生み出す。その理由を考えるヒントとして分かりやすいのは、再登場したミカヅキの3本目での振る舞いだろう。2話で新横浜へやってきた際は吸血鬼・マイクロビキニや同熱烈キッスにいいようにやられた彼だが、今回はその轍を踏まない。イケメン好きの熱烈キッスにはわざとイケメン度を減らすことで戦意を削ぎ、マイクロビキニ相手には先んじてマイクロビキニを着込んでおいて相手を変身させる攻撃を無力化するなど準備万端だ。これらの対策は実効を挙げており、新横浜でもやっていけるとロナルドが成長を認めるのも自然な反応のように思える。だが、本当に彼は成長しているのだろうか?
 

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ミカヅキ「なんて……なんて強くてかっこいいんだ! すごい、やっぱりすごいハンターだったんだ」
 
ミカヅキという少年は真面目さを絵に描いたようなキャラクターだ。人気商売の側面もあるため色物的な格好をしている新横浜のハンターと違いその服装はシンプルに格好良さを追求したものだし、武器も刀であるから基本的に殺傷以外の用途を持たない。そういう「遊び」のなさ故にかつて彼は新横浜の変態吸血鬼にはなすすべもなく帰らざるを得なかった。今回も奇策で吸血鬼に対抗してはいるが、それが奇策なのは他人から見た時の話に過ぎない。ミカヅキはいつだって大真面目に吸血鬼に立ち向かっているに過ぎず、その点では前回も今回も何も変わってはいないのである。多分に盛って書かれているロナルドの小説「ロナルドウォー戦記」を信じて再び新横浜にやってきたあたりに、彼の変わらぬピュアな精神性は如実に現れていると言える。
 

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ショット「お前あの種飲んだのか!?」
マリア「だってデカブツの種攻撃はしのげるんだろ?」
ロナルド「根性すごいがもっと自分を大事にしてくれ!」

 

世の中というのは不思議なもので、良くも悪くも行動と結果が直結しない。真面目にやれば感動が生まれるわけではないし、ふざけていればギャグになるとも限らない。2本目の半田のように空回りする場合の方が大半で、しばしば私達はその理不尽に心折れがちだ。けれど一方で注いだ力は間違いなく因果の中にあり、人の持つ特質は齢や姿を変えて残ってもいる。本作がいつも私達を大笑いさせてくれるのは登場人物が自身では大真面目に振る舞って(あるいは大真面目にふざけて)いるからだし、1本目のコゼンラは巨大化しても変わらず植物にしてゼンラニウムの眷属であった。
 
 

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ
目に見えるのが笑いであるか、感動であるかは外面的な違いに過ぎない。ロナルド達は全力のドラマを見せてくれていることだけはいつだって変わらなくて、それがどう転ぶか分からないねじれ(ギャップ)に本作の大きな魅力があるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ吸死2期8話レビューでした。今回も盛り沢山でしたが、特に3本目のロナルドの語りが面白かったです。退治のために自分を犠牲にしなきゃいけない時もある、ロナ戦みたいにかっこつくことはほぼない……というあたりが1本目や過去の絵もあって説得力大で、しかしそこにどこか感動もあって。そしてそれを聞いて帰っちゃうミカヅキとの断絶ぶりや、帰る時に新幹線の最後尾から映すアングルの面白さ。ミカヅキはたまに新横浜を訪れるくらいがちょうどいい(前回に習って言えば「正しい時を指せる」)キャラなんだな。
 

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新幹線の最後尾って要するにケツなわけで、考えてみると今回は(コゼンラニウムの)ケツに始まりケツに終わったと言えます。ケツが重要なのであってコゼンラか新幹線かは外面的な違いに過ぎない。あとY談おじさん、半田の母にY談させようとするのは色んな意味で勘弁してください未遂で良かった。
 
 

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