蠱毒と孤独の家庭教師――「ダークギャザリング」1話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
闇集う「ダークギャザリング」。1話では霊媒体質の青年が運命の出会いを果たす。そのきっかけが家庭教師なのもまた、偶然ではない。
 
 

ダークギャザリング 第1話「寶月夜宵」

霊媒体質で引きこもっていた螢多朗。幼馴染の詠子に励まされ、社会復帰を決意し、家庭教師のバイトを始める。そこで受け持つ事になった生徒が、螢多朗を超える霊媒体質の天才少女・夜宵だった。
 

1.寶月夜宵が戦う相手

霊障から一度は引きこもりになっていた青年・幻燈河螢多朗は大学入学と家庭教師のバイトで社会復帰の道を歩み始めていた。しかし担当となった少女・寶月夜宵は常軌を逸したクレイジーオカルトキッズで……!?
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
夜宵「大丈夫。ここから先は私の役目」
 
ジャンプスクエアにて近藤憲一が連載中の漫画のアニメ化となる「ダークギャザリング」。分類としてはホラーだが主要人物の一人・寶月夜宵はなまじな幽霊以上に強烈なインパクトを放っている。髑髏を思わせる重瞳に加え幽霊を恐れる素振りをまるで見せず、恐ろしい悪霊を手もなく退治してしまう姿は我々の目を引かずにおかないが――彼女が幽霊と戦っているかと言えば否であろう。今回登場したホステスの幽霊は確かに現実に見れば多くの人が失禁しかねない恐怖の存在ではあるものの、夜宵の前には容易く無力化されている。劇中で彼女が言うようにこれは狩りであって戦いではないのだ。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
夜宵が真に戦うべき相手。それは1年半前、交通事故で死んだ母の霊を連れ去った化け物である。何かの幼生のようなこのおぞましい怪物が何者かは不明だが、なまじな悪霊よりずっとたちが悪いのは想像に難くない。夜宵であっても軽々に手を出すことはできないだろう。ならば彼女は母を取り返す決戦の前に鍛錬としての戦いをしなければならず、彼女は今回それに最適な相手を見つけることとなった。誰あろう、家庭教師としてやってきた螢多朗である。
 
 

2.競い合う蠱毒

夜宵にとって螢多朗は最高の戦いの相手である、などと書けば奇妙に思われるかもしれない。慥かに二人は、別に憎み合ったり武器を持って殺し合ったりしているわけではない。しかし彼らを並べて見えてくるのは、まるで競い合うような奇妙な共通点だ。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
螢多朗(難関中学受験の過去問を全問正解。こんな賢い子が、本当にただクレイジーなだけなんだろうか?)
 
1つには、螢多朗と夜宵はどちらも頭が良い点である。螢多朗は引きこもりで2年のビハインドがありながらも合格した大学の受験でもっとも高い成績を修めているし、彼が指導する夜宵は交通事故の影響でなんとIQが160を超えていることが明らかになった。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員

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螢多朗(間違いない、この子もこっち側だ。しかも断然深い!)
 
1つには、螢多朗と夜宵はどちらも強力な霊媒体質である。螢多朗は写真を撮れば必ず心霊写真になり、いわくつきの心霊スポットに行けば必ず幽霊に出くわすほど霊から"モテる"体質だが、そんな彼も見るからに呪われた人形を手に持ち平然とその息の根を止める夜宵には「この子もこっち側」「しかも断然深い」と戦慄せずにはおられなかった。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
夜宵(いや、効果はある。けどおかまいなしに入り込もうとしてる……それほど螢多朗は獲物として上等)
 
螢多朗と夜宵は共に幽霊絡みで常人離れした力を持っており、この1話は二人の能力勝負として見ると構図がスッキリしてくる。螢多朗が霊障で友人を傷つけ引きこもりになっていた過去を語れば夜宵が幽霊絡みの交通事故で両親を失い母の霊を連れて行かれた過去を聞かされるし、ホステスの霊が祟る電話ボックスに向かう際に夜宵が渡した地蔵は間違いなく魔除けの力を持っているが、螢多朗はそれ以上に霊を引き寄せやすい体質のためおかまいなしに幽霊に襲われることになってしまう。霊媒体質なのは同じでも、螢多朗と夜宵は互いが互いを無効化する正反対の能力の持ち主なのである。ただ、これは二人が不倶戴天の敵であることを意味しない。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
意図するところは不明だが、夜宵はホステスの霊を無力化した後ぬいぐるみに収めて持ち帰り、他にも多くの幽霊のいる自分の部屋に置いてその餌としていた。「蠱毒」……夜宵はこれを、虫同士で共食いさせ生き残った者が強力な毒を持つよう仕向ける呪術であると語る。そう、異なる毒の持ち主が競い合えばそこに生まれるのはより強力な毒と呪いだ。夜宵は霊媒体質でありながらその強さからか恐ろしさからか霊から避けられる存在となっている(ホステスの霊に鬼電した結果物理的に着拒されるほど)が、そんな彼女も螢多朗の側にいれば霊を狩ることができる。強くなることができる。螢多朗が自分の強さを台無しにするほど霊を引き付けてくれればくれるほど、夜宵にとっては自分の毒を強める機会を得られるのである。そして、これはけして夜宵が一方的に螢多朗を利用するだけの関係でもない。
 
 

3.蠱毒と孤独の家庭教師

夜宵にとって螢多朗は、自分がどれだけ強くなっても幽霊を引き寄せてくれる最高の存在である。だがそれなら、螢多朗にとってこの関係は何のメリットがあるのか。この1話は終盤、思わぬどんでん返しでその答えを教えてくれる。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員

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詠子「螢くん。あなたは恐怖を愛している」
 
螢多朗が引きこもりから脱したのは幼馴染の詠子の励ましのおかげであったが、夜宵のいとこでもある彼女は螢多朗のある性癖を見抜いていた。詠子は自分や夜宵を守るためという名目でホステスの取り憑いた電話ボックスに電話をかけた際の螢多朗が恐怖どころか笑みに満ちていたことを語り、オカルト嫌いを公言しているはずの彼が本当はむしろ恐怖を愛する奇人であることを指摘したのだ。今回の騒動を螢多朗はずっと嫌がっているように振る舞っていたが、自分ですら気付いていないだけでこの時間はむしろ至福のひとときだったのである。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
螢多朗にとって恐怖が愛の対象であるなら、ホステスの霊に殺されかけるような体験は願ったり叶ったりだ。だが、本当に殺されてしまってはこの幸福な時間はもう味わえない。殺されかけては助けられる繰り返しこそ螢多朗にとって最上の人生であり、それには霊の方から避けるほど強力な夜宵の存在はうってつけのパートナーとなる。もし夜宵をして退治できないほどの幽霊に殺されるなら、螢多朗はこれまで味わったことのないような幸福の絶頂とともに逝くこともできるだろう。螢多朗にとって夜宵の存在はすなわち、何度も愛すべき恐怖を味わわせてくれ更に恐怖を研ぎ澄ましてくれる最良の競争相手だ。
 
夜宵にとって螢多朗は自分の強さを増すための、螢多朗にとって夜宵は自分の感じられる恐怖を増すための"蠱毒"。ただ、二人の関係がそうしたイカれたパートナーシップかと言えばおそらくこれも十分ではあるまい。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
夜宵「螢多朗にお願いがある。……そばにいて」
 
螢多朗と夜宵には、もう一つの共通点がある。それは"1人"であることだ。螢多朗は強力な霊媒体質故にかつては引きこもりになっていたし、夜宵は交通事故で両親を失っている。二人を繋ぐ存在として詠子もいるが、霊感が無かったり螢多朗の性癖を嫌悪するどころか嬉しそうに見るメンタリティは二人とは大きく異なるものだ。螢多朗と夜宵は互いが、互いだけが"1人"の自分を重ね合わせて見られる可能性を……すなわち孤独から解放してくれる可能性を持っている。夜宵が「蠱毒」について口にした際に螢多朗は「孤独」について言っているのかと考えたが、これは必ずしも単なる聞き間違いではないのだろう。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
螢多朗「家庭教師になったのは偶然だけど、僕だから夜宵ちゃんにできることってあるのかな」
 
螢多朗は夜宵の家庭教師である。だがそれは、受験トップの学生がIQ160の天才少女に勉強を教えるだけの関係を意味しない。蠱毒と孤独について教えることこそ、螢多朗が今回請け負った家庭教師の真の役割なのだ。
 
 

感想

というわけでダークギャザリングの1話レビューでした。初回ということでどういう図式で物語を見たらいいのかウンウン悩みましたが、来週以降もこれは手こずりそうな気がするな……とはいえ恐怖を感じさせる要素が幽霊に限らず横溢していて、これは刺激的な視聴時間になりそうだと期待が膨らんだのも確かで。次回からどのように話が転がっていくのか、非常に楽しみです。
 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員
この神秘すら感じさせる場面が「ストッキングを被せた地蔵を振り回してる」とか普通思わない。どうしてこんな発想が出てくるのか。