誰かと誰かを繋ぐ魔法――「幻日のヨハネ」3話レビュー&感想

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仲立ちの「幻日のヨハネ」。3話ではヨハネのピンチが思わぬ事態を引き起こす。無力な彼女にしかし、他の人にはできない魔法がある。
 
 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第3話「団結Are you ready?」

 

1.チカとダイヤの異なる世界

前回「占い屋」の仕事で稼いだお金で幼馴染のハナマルのお菓子を買いに行こうとするも、黒い霧で凶暴化した鹿に襲われ大ピンチに陥ってしまった主人公・ヨハネ。今回はそんな彼女を助けるべく味方が現れる……のだが、今回の展開に本作をどう見ていいか分からなくなってしまった人も少なくないのではないだろうか。
 

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まず最初に現れたのは「ミリオンダラー」を名乗る変装した3人組。ヨハネが何度も「子猫ちゃん」と呼ばれて困惑するようにそのノリは前回までと大きく異なるものだ。
 

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また次に現れるのは鋼鉄のスーツを身にまといバイクにまたがる「スカーレットデルタ」なる人物で、特撮ヒーローをほうふつとさせるその振る舞いはやはり前回までとは大きく異なっている。
 
ハナマルが登場せずヨハネの相棒の狼獣ライラプスの出番も少ないこの3話は、これまでの2話で築いてきた統一感を全く破壊している。ミリオンダラーの正体はチカを始めとした旅館の3姉妹+母、スカーレットデルタの正体は行政局長官のダイヤであるが、「ヤッターマン」「キャッツアイ」あたりに近い前者と特撮ヒーローのような後者が同じ"場所"にいればこうなるのは当然の成り行きであろう。つまりこの状況に視聴者が感じるモヤモヤはけして期待外れではなく、むしろ製作者の掌の上にあると言える。
 

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チカ「ありがと。でもちょっとカッコつけすぎじゃない? ダイヤさん」
 
どれだけ優れた者であっても、場にそぐわなければ力は発揮できない。私人と行政で立場の異なるチカとダイヤが諍いを起こし折角の強さを空費してしまうのは、彼女達がこの場所からズレてしまっている証だ。だが逆に言えばそこさえどうにかしてしまえば、"場所"さえ用意してあげられれば話は変わってくる。
 

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チカとダイヤが諍いを病めるのに必要だったもの。それは原点に立ち返ることであった。そう、鹿達を鎮めるためにここにやってきた点では両者は変わらない。今は言い争っている場合でないこと、怪現象で凶暴化させられている鹿を放っておけないとヨハネが訴えれば、それは二人が手を取り合う"場所"になる。まるで違う世界を背負いいがみ合っていた彼女達は最終的には協力して技を繰り出すほど息の合った戦いぶりを見せたが、これはチカやダイヤと張り合う強さを持たないヨハネが訴えたゆえだ。道具や身体能力といった裏付けがないから逆にできる、ある種の魔法なのである。
 
 

2.誰かと誰かを繋ぐ魔法

魔法を使うために必要なのは力ではない。事件解決後にヨハネがワーシマー島(淡島)を訪れる後半は、そのことをよく教えてくれる。
 

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ヨハネ「あ、すみません。そちらに魔王さんはご在宅ですか?」
マリ「わたしのことよ」

 

ワーシマー島をヨハネが訪れたのは自分の持つ謎の杖について島の魔王なら知っているかもと助言を受けたためだが、子供を叱るための怪談の舞台ともされてきたこの島はヌマヅとは明らかに異なった場所だ。魚やクラゲのようなものが漂う様は陸上なのに海中のようだし、ヨハネはペラピーという不思議な使い魔から魔王のところまで案内もされる。ヨハネが「この杖なんかより不思議だよ」と身構えしまうのも無理はない。そこに住む"魔王"に至っては頭に角を生やし、離れた場所の声も耳に入ってくる本当に人間離れした存在であった。
 
"魔王"はヌマヅに起きている異変についても知っているらしく、ヨハネはあなたならなんとかできるのではと考えるが相手はそれに頷かない。その角や使い魔達が人々の警戒を呼ぶためだ。前節の表現を借りれば"魔王"は自分と人間の住む"世界"が違うのだと身をもって知っているのであり、だからこのワーシマー島から出ようとしないのだろう。けれどヨハネの反応は意外なものだった。
 

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マリ「変な角って思ってるんでしょ」
ヨハネ「ううん。飾りとかついててかわいいなって」
マリ「……かわいい……!?」
 
ワーシマー島に行く時こそ怖がりもしたが、ヨハネにとって"魔王"は気後れしたり恐れたりするものではなかった。彼女からすれば角も服も髪型も怖いどころか魅力的で、初めて見た時は魔王とは思わなかったほど。いや、話してみて感じたのは相手がむしろどこにでもいるような存在と変わらないこと――「マリ」という名を持つ一人の少女に過ぎないことであった。そう、ここでもヨハネは裏付けある力などに拠らずにマリと自分が一緒にいられる"場所"を提示したのである。
 

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ヨハネ「うーん、最初は怖かったけど、話してみたら意外と普通じゃんって。全然大丈夫だった」
 
住んでいる世界が違うと感じた時、その相手と一緒にいるのは難しいものだ。文化・思考・価値観・容姿エトセトラエトセトラ……自分と相手の世界が違うと感じさせる要因はいくらでも転がっていて、それらは拒絶や差別の理由として容易に合理化される。けれど世界が違うことは、手を取り合えない理由には本当はならない。どこかしら両者の世界が重なる部分があれば、重なる"場所"があれば、私達はそこから相手を新しく知ることができる。他にも重なる部分があると知ることもできる。そのために必要なのは相手を黙らせられる腕力や知力、人智を超えた超能力の類ではないだろう。今回"場所"を見つけたヨハネには実際、そんなものは何もないのだ。
 

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ルビィ「ルビィ、お姉ちゃんの役に立てて嬉しい!」
 
振り返ってみれば、凶暴化した鹿を鎮めた後にこやかに話す一同の様子は不思議なものだった。なにせ先に触れたようにヤッターマンあたりのようなチカ達3人と特撮ヒーローのような装いに身を包んだダイヤに加え、なんとダイヤのバイクからは妖精のような少女ルビィが飛び出してきたのだ。おまけにダイヤとルビィは姉妹だというのだからもはやメチャクチャだ。けれど「ラブライブ!サンシャイン!!」を知る者からはやはり姉妹でない二人というのは考えられない。世界も設定もメチャクチャなようで共存できる奇妙な"場所"があって、それを成し遂げたのは誰あろうヨハネである。
 

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ヨハネ「なかよし……なのかな? でもあの子、寂しそうだったな」
 
異なる世界が重なる場所を見つけるのに必要なのは力や能力ではない。誰かと誰かを繋ぐ不思議こそ、今回ヨハネが使った魔法なのだ。
 
 

感想

以上、幻ヨハの3話レビューでした。最初は本当に「お、おう……」という気分だったのですが、見返す内にその感覚に納得できてホッとしています。
 
とはいえこの異なる世界の重なる場所という概念、一概に肯定できるものでもないなと最近は感じていて。糞と味噌を一緒にしたり、無視すべきでない違いから目を逸らしてしまう効用もこの考えにはあります。全体主義というのは皆が金太郎飴のようになるのではなく、普段バラバラの人達がある一点では手を取り合えてしまうことで生まれるのではないか。2012年末から10年間念仏のように皆が唱え続けた言葉や、特定の法人や党を重なる敵として求めるような今の動きからそんなことを思ってしまうのです。
 

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ヨハネ「うそ、ダイヤさん!?」
ダイヤ「いいえ、スカーレットデルタです!」
 
ヘルメットの下でどんな顔してるんだろうダイヤさん。演じる小宮有紗さんは特撮ヒーローもやったことがあるそうなのでこれも異なる世界の重なる場所……さてさて、次回はヨウやカナンの本格的な出番もあるようでこれで9人勢ぞろいかな。どんな話になるのか楽しみです。

 

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