膨らむ利息――「オッドタクシー」5話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
絡み合い深まる「オッドタクシー」5話では、小戸川はいつも以上に多くを乗せる。タクシーはほとんど一期一会の仕事だが、だからといって降りた瞬間に全てが消えたりはしないものだ。
 
 

オッドタクシー 第5話「アイドルなんて呼ばないで」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。アイドルが乗ってくることもあるが、オーセンティックなバーのバーテン並に口は堅いので安心。
 

1.消えない痕跡

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山本「さっき乗せた娘達には悪いけど、金剛石をより輝かせるための引き立て役も必要なんだ。言わば俺は、金剛石を使ったジュエリーデザイナーさ。じゃないと世間に見つかりにくい、金剛石なんてものはね」
小戸川「ダイヤモンドって言えよさっきから」
 
タクシーに乗る時間は移動のためのわずかなものだが、下車すれば全てが消えるわけではない。前半で小戸川が乗せるアイドルマネージャー・山本やその担当アイドル達とのやりとりはこの点で象徴的だ。山本は関係性を考慮して担当する三矢と市村を別々にスタジオへ送るが、会話は自然と前に乗せた人間も前提としたものになっていく。山本は二人を送った時のやりとりから小戸川のタクシーを今後も利用したいと考えるし、以前も事務所で誰かを下ろしたという話からドライブレコーダーの映像を欲しがり小戸川はドブの話を思い出す。
 

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誰かを乗せて目的地で下ろす。タクシードライバーの仕事はそれでおしまいだ。しかし人のすることには必ず痕跡が残る。だから山本は乗せたアイドルのことを小戸川に口止めするし、逆に利用するタクシーをできるだけ小戸川に固定しようともする。彼が残したフライヤーはドブにアイドルグループ・ミステリーキッスの説明を容易にし、田中に頼まれて三矢がスマホを仕込んだ結果、小戸川は自分でも知らぬ内に住居を彼に教えてしまう。人は自分が思った以上に痕跡を残しているものなのだ。
 
 

2.膨れ上がる利息

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人は自分が思った以上に痕跡を残しているし、その痕跡は知らぬ間に膨れ上がっている。それによく似たものを、この5話は最後に提示している。そう、柿花が落とした高利貸しのレシートに書かれたもの――利息だ。
 
人は自分が借りた金額は認識しやすい。それは自分で使う金額でもあるからだ。しかし(必要な時に都合する手数料として存在するわけではあるが)利息は使った以上の金であるが故に認識から外れやすく、簡単に膨れ上がる。視認できるようになった時は既に手遅れで、人は認識と現実のギャップに驚かずにいられない。
 

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小戸川「お前らのシノギに加担する気はない、後は勝手にやってくれ。俺は関係ない、もう俺に関わるな」
ドブ「おいおい、ショックなのか?白川のこと……」

 

白川とドブに関係があると知った小戸川は彼らとの関係を断ち切ろうするが、 その口ぶりにこそ彼の白川への思いはにじみ出ている。利息は膨れ上がっている
痕跡には、過去には利息が付きものだ。とっくに過ぎ去って傍目には何も残っていないようでも、借りた額は返しているようでも利息は残っている。ふとした時に蘇る記憶、トラウマ、執着、惹かれた心、裏切りへの失意、前借りした称賛、積み重ねた嘘……生きる限り利息は膨れ上がり続け、それを都合よく破棄するなど誰にもできはしない。最初は何気なく展開される描写が後々大きな意味を持って蘇ってくる本作の巧みな描写は、そういう利息の性質をよく表現している。
 
手足を縛られ放り込まれた浴槽に少しずつ水を入れられていくような物語の行く末は、果たして。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの5話レビューでした。柿花、樺沢、ドブ、そして小戸川とジリジリ追い詰められていく人多数。水位がじわじわ上がっていく。戻れないところに足を突っ込んでいく人を見るのはしんどい……次回は10億当てた今井とヤクザから金借りる柿花でまた残酷な対比が見られそう。しんどい、そして目が離せません。
 
 
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