夜明けの密約――「ルパン三世 PART6」7話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
銃声暗闇に響かず「ルパン三世 PART6」。7話では10年前の事件の一端が明かされる。だが、副題の「語られざる事件」とは果たしてその10年前の事件のことだろうか?
 
 

ルパン三世 PART6 第7話「語られざる事件」

あれから、ホームズの様子は変わった。復活したホームズは、ここ数年の未解決事件を片っ端から解決し、ロンドンの裏社会は震撼。リリーは、そんな鬼気迫るホームズの様子に、一抹の寂しさを覚えていた。――そんな中、ルパンの耳に、ある男の情報が飛び込んでくる。男を追って再びロンドンへ入ったルパン。そこには、ルパン逮捕に燃える銭形が待ち構えていた。
 

1.語られざる男たち

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リリー「元気……なんだと思います。捜査に出てばかりであんまり会ってないんですけど」
 
オムニバス方式で展開するPART6だが、時間を空けて再び描かれるロンドンの様子は以前と少し違っている。ルパン不在の間にホームズは髭を剃り、諮問探偵として活動を再開。未解決だった事件を片端から解決して回る七面六臂の活躍を見せている。しかし代償として彼は家を出ることが増え、以前のようにリリーと共に過ごす時間が極端に減ってもいる。
レストレードにホームズの様子を問われたリリーが「元気……なんだと思います」と返すように、今のホームズについてリリーが語れることは少ない。スコットランド・ヤードにも顔を出さなくなったホームズの単独行動は全てが「語られざる」ものだ。
 

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ルパン「お前は背後関係を探ってくれないか?」
次元「いつもと役割が逆じゃねえか?」

 

また、単独行動をしているのはホームズだけでなくルパンもだ。不二子は登場せず五ェ門は未だホームズに敗れた屈辱の中にあり、次元は情報収集に回ったためルパンと行動を共にしていない。ルパンの単独行動もまた「語られざる」状態にある。
 

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語られざるホームズと語られざるルパンが再会し、殺し屋・モラン大佐は銃声のしない空気銃――つまり語らない銃――を用いて二人を殺そうとする。今回明かされる10年前の事件は確かに語られていなかった。しかしこの7話で起きたこともまた、彼ら以外に知る者のない「語られざる事件」だと言える。
 
 

2.ホームズの求める宝

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語らない、ということには利益がある。宝くじ当選者に渡されるガイドブックには当選したことを誰に知らせるか範囲を決めるよう助言が記されているそうだが(【その日】から読む本Wikipedia))、誰にも彼にも全てを語ればそれは危険のもとになる。語る、あるいは語ろうとした人間が命という利益を失って死ぬ危険と背中合わせなのは、10年前に殺された謎の組織レイブンの一員・ホレイショの末路からも明らかだ。
80年代以降レイブンがより深い社会の闇に潜ったのは、「語られざる」存在としての利益を最大限に確保する効力を持っていた。「語られざる」存在であることこそは、レイブンの宝なのである。10年前にレイブンの一員の顔を見た恐れのあるリリーが警戒されるのは当然のことだろう。
 

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銭形「お前、だからわざとリリーの前に……」
 
そんなリリーの10年は穏やかなものだが、しかし極めて危ういバランスの上に成り立っていた。もしホームズが事件現場でルパンと相打ちになっていれば彼女を守れる者はいなかったし、事件の晩の記憶を失っていなければレイブンに襲われる恐れもあった。彼女が命の危険を感じず過ごせたのは、ホームズの咄嗟の判断とおそらくリリー自身が自己防衛のために記憶を失ってかろうじて生まれた吊橋に過ぎない。
リリーが記憶を取り戻せば、語れば吊橋が崩れる恐れがあるのだから、ルパンがリリーの前に姿を現したことをホームズは非難する。そして、ルパンがそんなことをした理由こそは今回ホームズが確認せねばならぬ謎=お宝であった。
 
 

3.夜明けの密約

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ルパン「ところでどうなんだ。欲しい情報は手に入ったのかとっつぁん……いや、シャーロック・ホームズ?」
 
ホームズが変装した銭形警部に、ルパンはその正体を知りながら10年前の事件の真相をおさらいし自分が再びロンドンにやってきた理由を語る。彼の目的はリリーを害することではなく、自分の顔を見せることでリリーに過去を向き合わせることにあった。だが、これは奇妙な話だ。
そもそもなぜ、ホームズは変装する必要があったのか?襲撃者を騙すだけなら、カーテン奥の偽の立板で事足りたはずだ。つまり変装はその後に起きたことのためにこそある。ルパンは今モラン大佐が狙うなら女王陛下かホームズくらいと踏んでいたが、ホームズもまたルパンが自分のところへ現れるのを想定していたのだろう。ルパンに会うために、ホームズは銭形に変装したのだ。
 

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銭形「10年前、何があったんだ?」
 
3話でホームズと対峙した時、ルパンは自分は悪党であり嘘もつけば人も殺すと言った。状況証拠からルパンがワトソン殺害の犯人でないと確信できているとは言え、そういう人間がホームズに素直に真実を話すかと言えば怪しいものだ。しかし銭形相手なら話は違う。長年ルパンを追い続ける宿敵にしてある種の友人でもある彼に対してなら、ルパンはこんな話で嘘はつかない。銭形への変装は、ルパンの言葉の真贋の確度を上げるための研磨剤のようなものであった。
そして、銭形への変装がもたらす効果はもう一つある。ルパンとホームズが協力した痕跡が残らない点だ。
 

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ホームズ「認めよう、守るばかりでは前に進めない。リリーもそろそろ真実と向き合うべきだ」
 
言うまでもないがルパンは泥棒、ホームズは探偵だ。それは元々が夜と昼のように相容れない存在であり、また二人が行動を共にすればそれはレイブンからの警戒と疑念を招く恐れもある。彼らはあくまで立場を事にする者であり、表立って手を組むことはありえない。だが、夜明け時だけは別だ。
レイブンとは無関係だったモランが立ち去ったのを確認して、ルパンはとっくに気付いていた偽銭形の正体にようやく言及する。ホームズもまたバレているのを承知していた正体をようやく明かし、二人はついに向き合う。少なくともレイブン絡みにおいてルパンとホームズが敵対する理由がないことは確認されたのであり、それはまさしく夜と昼の混じり合う奇跡的な瞬間と言えるだろう。
 

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夜明けのわずかな時間に交わされた、泥棒と探偵の密約。それこそは二人以外はまだ誰も知らない、「語られざる事件」なのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期7話のレビューでした。うーん、あまり調子が良くないな。最後にそれっぽいものにたどり着きはしましたが、そこまでの道筋を自分では制御できていないというか。今回、文章量の多さは迷いの現れにしかなっていない感がある。こんな書き方では体が持たない。
 
さて、ホームズやリリーの見知った顔の男と言えば一人しかいないしそう思って見るとあらゆる行動がそれっぽくしか見えませんが、こりゃ必ずしも正体そのものが重要なわけではないのかな。今後どんな展開を迎えるのか気になるところです。
 
 

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