人と操り人形と――「機動戦士ガンダム 水星の魔女」5話レビュー&感想

© 創通・サンライズMBS
愛が憎しみを増す「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。5話では御三家のパイロットの一人、エラン・ケレスが動き出す。彼の秘密から見えてくるのは、人間と機械(操り人形)の境界線のあやふやさである。
 
 

機動戦士ガンダム 水星の魔女 第5話「氷の瞳に映るのは」

ペイル・テクノロジーズがエランを利用して、エアリアルの秘密に迫ろうと画策する。
何故か自分に優しく接するエランのことが、スレッタは気になっていた。
そんな中スレッタはある日、エランから外出の誘いを受ける。

公式サイトあらすじより)

 

1.自分と同じなのは

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スレッタ「氷…?」
アリヤ「彼、いつも無表情だろう? 笑うところも怒るところも誰も見たことがない……」

 

5話は主要人物の一人、エラン・ケレスがスレッタに決闘を申し込むまでの話だ。ベネリットグループ御三家の一つペイル社が擁立したパイロットである彼はどんな時も感情が顔に現れず、その美しい風貌もあって周囲からは「氷の君」などと呼ばれている。そんな彼が例外的に興味を示しているのが主人公のスレッタであり、「休日一緒にお出かけ」――一般的にはデートと受け止められる――にまで誘ったことはスレッタの住む地球寮では驚きをもって迎えられたほどだった。
 

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エラン「スレッタ・マーキュリーはおそらく強化人士だ。ガンダムに乗るためだけに作られた人間……僕と同じようにね」
 
エランはなぜスレッタに興味を持ったのか? その理由は、今回明かされる彼の秘密から見えてくる。ペイル社によるエランの呼称は「強化人士4号」……その正体はなんと、劇中世界の禁忌の技術GUNDフォーマットに耐えられるよう調整された人間であった。彼はペイル社の指示でスレッタを調べていたと同時に、GUNDフォーマット使用疑惑のあるMSエアリアルに乗っても廃人にならない彼女は自分と同じ強化人士なのではないかと期待していたのだ。しかし、調査は彼の淡い願いを打ち砕く結果に終わる。
 

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エラン「パーメットが反応していない。ならば、呪いをクリアしているのは……」
 
スレッタに頼み一人でエアリアルに搭乗したエランは、GUNDフォーマットを発動させこの機体がやはりその採用機"ガンダム"であることを確認する。ただ、そこにはいつも彼が感じるような不快感が伴っていなかった。GUNDフォーマットを介して流れ込む膨大な情報はそれに耐えられる強化人士でも不快感を覚えるものだったが、エアリアルは機体の側でそれを解決していたのである。エアリアルの正体は強化人士ならぬ「強化ガンダム」だったと言ってもいいだろう。
 

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エラン「スレッタ・マーキュリー、君は僕とは違う……!」
 
エランはスレッタがただ一人自分と同じ存在なのではないかと考えていたが、同じなのは彼女ではなくエアリアルの方だった。これはエランにとってショックなことだったろう。大げさなほど表情が動くスレッタと同じであれば、おそらく彼は自分が人間であることを再確認できた。だがまるで人間のように動くとは言えしょせん機械に過ぎないエアリアルと同じなら、表情も感情も乏しい自分は機械と何が違うというのか。自分と"平等"な人間を求めてスレッタに接していたエランが味わったのは、自分は機械と、操り人形と平等なのだという絶望であった。
 
 

2.人と操り人形と

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エラン「ちょうどいい。グエル・ジェターク、君に決闘を申し込む」
 
自分が機械と同じであることに絶望したエランは、ペイル社の指示に「機械のように」従い事態を動かしていく。新型MS・ファラクトのテストのため適当な相手と決闘(本作の舞台である学園で全てを決める、MS同士の戦い)をするよう言われていた彼は、デートを聞きつけやってきた同じく御三家の一人グエル・ジェタークに決闘を申し込む。
 

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グエル「こいつも……ドローンか!」
 
グエルとの決闘で初めて姿を現したファラクトは、強化人士たるエランの能力を生かしたGUNDフォーマット採用機"ガンダム"であった。つまりエアリアルと同じなのであり、そのことは戦いぶりからもうかがい知ることができる。対戦相手はエアリアルの学園での初陣相手を務めたグエルだし、展開するのはエアリアル同様GUNDフォーマットで操作されるガンビット、グエルのディランザ*1は今回も四肢をもがれる結果に終わる……その様はまるで1話を再現したかのようだ。「ガンダムを倒せるのはガンダムだけだ」というエランの台詞からすれば、これは自分がエアリアルと同じだという宣言でもあるのだろう。だが、ここから見えてくるのはむしろエランとエアリアルの違いの方だ。
 
 

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エランのファラクトの戦いぶりは、端的に言って凄惨である。エアリアルと異なりガンビットから放たれるのはスタン効果の電磁ビームであるから直接的な攻撃力を持たず、破壊自体は別手段で行われる。手持ちのライフルによる四肢の破壊やマニュピレータによるアンテナの破壊は見る者が呆然とするなぶり殺しであり、そこには1話でエアリアルが見せたような痛快さはかけらも存在しない。自分がスレッタではなくエアリアルと同じことに絶望した彼はその実、エアリアルとすら同じでなくなってしまっている。エアリアルと同じと認識し、更にそれを真似しているにも関わらずむしろ差異が生まれてしまっているのだ。
 

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エラン「君が僕との決闘で賭けるのは……エアリアルだ。僕が勝ったら、君のガンダムをいただくよ」
 
人は自分と同じような存在を、自分と平等な存在を求めるものだ。グエルを撃破したエランは続いてスレッタにエアリアルを賭けた決闘を申し込むが、これはペイル社の指示かもしれないがそれ以上に自分の半身を求めるような気持ちがあるのだろう。だが今回の戦いで明らかなように彼とエアリアルは同じではなく、故にエアリアルの入手は彼の渇きを満たすことには繋がらない。同じ考えを持っているのを理由とした付き合いの先にはむしろより大きな意見の相違が待っていることが珍しくなく、孤独な強化人士エランがぶつかっているのは実のところ、そうしたありふれた悩みに過ぎない。
 

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プロスペラ「教えたでしょ、進めば二つって」
スレッタ「うん」

 

次回繰り広げられるであろうエランとの戦い、スレッタに求められるのは勝利以上に彼の救済だ。自分が機械と(操り人形と)変わらないという絶望に、別角度から光を当てることだ。それはきっと、母の操り人形としての一面のあるスレッタ自身にとっても大きな意味を持つ。エランを知ろうと"進む"ことで、スレッタは自分と彼の二つを救う何かを手にするのである。
 
 

感想

というわけで水星の魔女の5話レビューでした。「強化人種」だと思ってたら字幕によると強化人士らしい。今回は個人的に印象に残ってるのが、エランの無表情さに対するスレッタの反応でして。
 

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スレッタ「笑わない……?」
 
きょとんとしてます。彼女からすると、エランは別に無表情ではないんじゃないかと。
 
1話で示されたように、スレッタは友達や家族同然だというエアリアルとコンソールの表示を通してコミュニケーションをとります*2。私達からすればエアリアルは無表情そのものだけど、スレッタにとってはそうではない(エアリアルを「君」と呼ぶニカにしても同様か)。もの言わぬ機械の反応が表情の代用になるように、顔面の動きだけがコミュニケーションの手段になるわけではない。「機械のような人間」エランと「人間のような機械(とスレッタが思っている)」エアリアルが同じなら、スレッタはエアリアルに人格を見るようにしてエランの感情を読み取っているのではないかと思うのです。次回、彼がどんな姿を見せてくれるのかとても楽しみ。
 

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ところでレビューでは全く触れる機会がないのですが、アリヤを見ていると小さい子供の世話をしている姿を見たくなってしまいます。はしゃぐ子供をマイペースにたしなめる様子がめちゃくちゃ似合いそうというか。死語を引っ張り出すならこれは「バブみ」なのか……?
 
 

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*1:専用機でこそないが、1話と同じ機体である

*2:公式サイト小説「ゆりかごの星」ではスレッタが学校に行くまでをエアリアルの視点で書いていますが、私としてはこれはあくまで小説で擬似的に人格を持たせたものか、"宿った"自我だと解釈しています