時間差の魔法――「幻日のヨハネ」4話レビュー&感想

©PROJECT YOHANE

伝わる「幻日のヨハネ」。4話ではヨハネに新たな出会いと新たな発見が訪れる。本当のメッセージは、空と海の間にある。

 

 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第4話「空と海のあいだ」

 

 

1.ヨウが届けるもの

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ヨハネ「でも、ヌマヅを救うとかそんなことわたしにできるわけないし」

 

前回訪れたワーシマー島で、魔王と呼ばれる少女マリから「あなたならヌマヅを救えるかもしれない」と言われた主人公・ヨハネ。しかし帰宅した翌朝の彼女は自分にそんなことができるとは信じられず、前日の出来事もどこか夢のように感じている。そんなヨハネがヨウとカナンの二人の仕事を手伝うのがこの4話であるが、注目したいのはヨウの仕事がメッセンジャーである点だ。

 

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ヨウ「こんにちは、ヨハネちゃん!」

 

ヨウの仕事・メッセンジャーはいわゆる郵便配達人である。仕事の様子からは個人間の私信がこの世界の郵送物の中心のように見受けられるが、考えてみるとこれはとても不便な代物だ。文字を筆記した紙を人が運ぶわけだから、書いたとしてもすぐには相手に届かず時間差が生じてしまう。もちろん郵便自体もそれまでの時間差を縮める偉大な仕組みではあるのだが、SNSやEメールが禁止され電話と手紙だけでやりとりせよと言われたらその時間差は現代人にとって耐え難い苦痛になることだろう。文明というのはおよそ、こうした時間差をなくすのを目的に発達してきたと言っても良い。

 

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カナン「ごめんね、今手ぇこんなんだから中で受け取っていいかな」

 

ただ、メッセージは物理的に届けばそれで終わるわけではない。ヨハネは前々回や今回、口にしたことが相手に失礼だと発言直後に気付いて落ち込んでいるし、前回のマリの言葉の真意も掴みかねている。文字や音を伝える手段が発達しても、そこに宿ったり込められた意識が届くまでにはやはり時間差があるのだ。すなわち、4話が時間差のある手紙を届けるヨウの「郵便でーす!」で始まるのはヨハネが時間差でメッセージを受け取るお知らせなのである。

 

 

2.時間差の魔法

メッセージには時間差で伝わる部分がある。ヨハネはヨウやカナンの仕事の楽しさや意義を「時間差」で知っていくが、学ぶのはけして彼女だけではない。

 

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ヨウ「例の異変で変わっちゃったところもあるんだけど、それもぜーんぶ込みでわたしはこの町が好き!」

 

例えばヨウはヌマヅの町が色々な顔を持っているところが好きだが、それは(時には特殊な機器で空を飛んで!)郵便で町を見渡せるこの仕事についているから気づけたのかもしれないと言う。全てはヌマヅが好きになって、色々な顔を持っていると知った後で気付いたことだ。最初からそうだったわけではない。

 

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カナン「でもわたし、この仕事を続けてきて分かったの」

 

例えばカナンは「どんなものも必ず生まれ変われる」「いらないものなんかない」という考えを持っているが、これはメカニックとしてリサイクルに携わる日々の中で育まれたものだ。廃材の有効活用や環境保護から始まったであろうことは、彼女の中で結果的にある種の哲学として結実していた。

 

ヨウもカナンも、自分の仕事が自分に何をもたらしているかに気付いたのは後になってから……時間差によってであった。身体的な理解が先にあったのであり、気付きはそのゴールに過ぎない。すなわちメッセージをただ文字や音として受け取っている間は、頭で分かったつもりになっている間は私達は時間差を埋めることが――本当の意味で理解することができない。

 

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ヨハネは当初、ヨウやカナンの仕事の手伝いに乗り気でなかった。自分に向いているとは、できるとは思えなかったからだ。けれどやってみればそこには意外な楽しさや、嫌な過去を払拭してくれる効果すらあった。自分には何もない、何も出来ないと「頭で分かっている」つもりだったヨハネの時間差を、今回の体験は万の言葉すら比べ物にならない雄弁さで埋めてみせたのだ。

もちろん彼女はかねてよりの宿題である「自分にしかできない楽しくてたまらないこと」を見つけられてはいないし、マリの言葉の意味も全て分かったわけではない。それでも、頭だけの理解の殻を破れただけでもヨハネにとって今回の出来事は大きなものだろう。だから彼女は二人にお礼が言えるし、幼馴染のハナマルも含めてもし自分が答えを見つけられたら聞いてほしいと心を開くこともできる。

 

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ヨハネ「みんな、繋がっているんだね」

 

ヨハネは今回、ヨウの仕事を手伝う中でパラグライダーで空を飛んだ。終わった後は勘違いで海にも飛び込んだ。けれど本当に彼女が飛び込んだのは副題の通り「空と海のあいだ」である。
文字を読むだけではメッセージを本当には受け取れないのと同様、光学的には私達は空と海のあいだを見ることができない。だが一方で人間は、心の目が不確かな故に他者や関係ないように思える事柄から、他の狭間からその存在を覗き見ることができる。不思議とは不条理の裏返しなのであり、ヨハネが見た空や海は単に高度が高かったり周囲が水で満ちているだけの"場所"ではない。
時間差とは魔法である。全てを時間差なしには理解できないからこそ、私達はあらゆるチャンネルからその深奥に手を伸ばせるのだ。

 

感想

というわけで幻ヨハの4話レビューでした。ヨウの「叫んでみたら?」をヨハネが結構後になってから実行するなどの「時間差」から題はすぐ決まったのですが、練り込みが甘かったのか実際に書くのは結構な時間がかかってしまいました。まあおかげで副題とも繋げて考えられたので結果オーライ。

 

さてさて、次回5話は「まおうのひみつ」ということでマリの出番が中心になるのかな。9人全員の顔出しが終わりライラプスにも何かあるらしいことが示され、今後どう絡んでいくのか楽しみです。

 

 

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