人と狼の交わる場所――「アンデッドガール・マーダーファルス」12話レビュー&感想

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

扉が開く「アンデッドガール・マーダーファルス」。12話ではクライマックスに向け一気に状況が動き出す。人と狼の交わるその場所で、両者を分けるものはなんだろう?

 

 

アンデッドガール・マーダーファルス 第12話「流れの交わる場所」

undeadgirl.jp

 

1.「狼」が生まれた日

人狼村<ヴォルフィンヘーレ>へ向かう途中、夜宴の一員ヴィクターの急襲を受けた鴉夜と津軽。しかしそれはロイスのエージェントを撒きたい二人の考えを察してのものだった。村の近くで待っていたヴェラの案内を受け、彼女達は静句と再会するが……?

 

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ハイネマン「神様……」

 

交錯の「アンデッドガール・マーダーファルス」。人と化け物の枠に留まらぬ複雑な物語の展開される本作だが、12話はひときわそれが強い内容だ。鴉夜は自分の肉体を奪った夜宴<バンケット>の一人ヴィクターと取引するし、人狼の少女ヴェラは鴉夜の使用人である静句を救うために村を裏切るような真似まで行い手助けしてくれる。物語は最終的には隠し通路を見つけたホイレンドルフ村の人々が人狼村を襲撃し、彼らを連れてきたロイスのエージェント二人は夜宴のアレイスターやヴィクターと戦闘に入るなど事態はあまりに入り乱れており、混乱とは正にこういった状況を言うのだろう。

 

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津軽「3匹目……!」

 

混乱とは、既存の敵味方や強弱の破壊である。例えば今回、強靭な肉体を持つはずの人狼はほとんど強さを発揮できてない。津軽にはデニス達を始めとした村の精鋭3人が襲いかかるがあっという間に始末され返されてしまうし、超人的な強さを持つアリスとカイルに率いられたホイレンドルフの村人は奇襲と放火によって人狼達を追い詰めていく。そこには人に化けるのが上手く、獣人となれば毛皮も通さぬ強大な力を持つとして恐れられた人狼の面影はほとんど見えない。だが、混乱の中で破壊されているのは肉体的な強弱だけに留まらない。

 

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デボラ「あたしらあの子を捨てようとしたんです! 8年前祭りの前日に、花摘みに乗じてあの子を北の森まで連れてきました。車椅子から降ろして、そんで置き去りに……そうすりゃ暮らしが楽になるって!」

 

今回はホイレンドルフ村で行方不明になっていた少女ルイーゼの死体が発見されるが、鴉夜の指摘で明らかになったのは彼女の立場が4歳前後で大きく変わっていたことだった。今でこそ村中で慕われているが、足に障害を抱えた彼女はかつては両親に森に捨てられるほど人々から厄介がられていたのである。だがそのまま衰弱死するはずだったルイーゼは同じく村に住んでいた少女ユッテと共に帰ってきたその日の夜にユッテが人狼だと告発し、一躍村の英雄に変身。彼女は人狼を巡る混乱を通し、いわば己の社会的な強弱を破壊したのだった。

 

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鴉夜「ルイーゼは賢い子だ。あの子は生存戦略を必死に練ったんだろう」

 

命の恩人を売って英雄になる。なんとも没義道な話だが、注目したいのはルイーゼの行動に「嘘」が絡んでいる点である。鴉夜達の推測によれば、彼女がこんなことをした理由の一つはユッテの排除によって自分が捨てられかけた事実を隠す――嘘をつく――必要があったためだ。そして私はこの第三章の始まりのレビューで、嘘つきは人狼とはまた別の「狼」になるのだと書いた。ルイーゼが嘘をついたのは自分の生存戦略のためであったが、つまり両親に捨てられたあの日に彼女は「狼」になったと言えるだろう。

 

人狼は変化する肉体によって嘘をつくが、ルイーゼがそうであるように人間もまた嘘をついて「狼」になる。では「狼」とそうでない者の違いはどこにあるのか? 常に嘘をつかないことか? 否。

 

 

2.人と狼の交わる場所

「狼」とそうでない者を分ける境界線はどこにあるのか? 12話は、そのヒントとなる人物を冒頭から登場させている。誰あろう夜宴の一人、ツギハギだらけの剛力無双の怪物・ヴィクターだ。

 

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ヴィクター「メイドが流されたんだろ? 騒ぎを見てた」

 

嘘つきか否かを考えた時、ヴィクターは間違いなく嘘つきに分類される人物だ。なにせ前回ラストで彼は鴉夜と津軽を襲ったが、それはアリスとカイルから二人を引き離すための見せかけで実際には戦うつもりなどなかった。モリアーティ教授率いる夜宴と敵対する鴉夜を助け、恩に着せて人狼村の場所を教えてもらうなど関係における嘘以外の何であろうか。だが、だからといって彼は卑怯者の「狼」ではない。

 

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津軽や鴉夜との会話から伺えるのは、ヴィクターの実直さである。彼はこの状況を作るため嘘をついたが、鴉夜達との折衝にあたってはむしろ正直だ。情報が目的であることも、津軽達の話を単純に信じられる立場にないことも彼は隠すつもりがない。ヴィクターは嘘をつけないわけではなく、敵対関係を嘘にするのに正直さが必要なのをよく知っているのである。そういう相手だからこそ鴉夜は人狼村の場所を教えるよう津軽に指示できるし、津軽も情報が嘘だった場合の担保として鍵となるブラックダイヤを求められても応じることができたのだろう。これは彼女達とアリスやカイルの一時休戦が実際は裏切り上等、嘘の協力関係だったのとは対象的だ*1

 

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静句「ですが……」
鴉夜「命令だ。行きなさい」

 

生き物は嘘つきである。人や人狼については既に触れたし、ただの動物ですら姿を擬態したり足跡で自分の行方をごまかしたりする。だがルイーゼの例から見えるように、私達を「狼」にしてしまうような、ついてはいけない嘘はもっと別のところにあるものだ。それが何なのかは、今回終盤の静句と鴉夜のやりとりから朧気に見えてくる。

ロイスや村人、夜宴の来襲で人狼村が大混乱に陥ったさなか、静句は鴉夜やヴェラと共に村外れにいた。前回殺されたノラが埋葬されたばかりの墓場で何かを調べるためだ。津軽は自警団の人狼の追跡を排除するため別行動しており、静句としては自分が鴉夜を守らなければと気負っていたはずだ。しかし一方で彼女は自分を助けてくれた人狼カーヤがどうなっているか気が気でなく、鴉夜はそれを見逃さなかった。

鴉夜はカーヤを助けに行くよう静句に言い、彼女が役割を理由に断れば命令という形をとってまで望みを叶えてやろうとする。優秀な臨時助手として指名したヴェラは実のところ、臨時助手という言葉の意味すら分かっていなかったにも関わらずだ。すなわち鴉夜は、命令や臨時助手といった嘘によって静句が本心に正直になれるよう取り計らったと言えるだろう。

 

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ヴェラ「アヤサマ、優しいんだね」
鴉夜「そうだろう? よく言われる」

 

私達は自分の本心に、特に真心に嘘をついた時「狼」になる。大義だとか論理だとか自分以外のものに判断を委ねた時、待っているのは社会的成功に糊塗された精神の破滅だ。口ではごまかしながらも(嘘をつきながらも)、静句を助けたい本心に嘘をつかず自分が不利な立場に置かれるのも厭わないヴェラのような存在は臨時助手としてはこの点で確かに適任と言えるかもしれない。

敵味方が入り乱れる状況に陥った人狼村は、12話の副題が指すように「流れの交わる場所*2」である。だが、交わる流れとは人間と人狼のそれではない。「人」と「狼」が交わる場所こそ、今の人狼村の真実の姿なのだ。

 

 

感想

というわけでアンファルのアニメ12話レビューでした。鴉夜が静句に別行動を促す場面が本当に優しくてですね。同時にこれは、鴉夜と津軽の「医療行為」に自分がよそ者になったように感じている静句が自分はちゃんと鴉夜に思われていると信じさせるものでもあったのだと思います。体が離れていても、心が一緒にあれば馳井静句は生きている。ヴィクターの格好良さやヴェラの純朴さも心が洗われるような気持ちになりました。

さて、笑劇<ファルス>と銘打った奇妙な旅を描いた作品のアニメ化もいよいよ最終回……なのですが来週は都合で更新が遅くなります。金曜夜までずれ込むかもしれません。最後の最後で申し訳ないのですが、きっちり最後まで見届けたいと思います。

 

 

 

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*1:死体を繋ぎ合わせた嘘の肉体を持ったフランケンシュタインの怪物が、本物の肉体を持った人間よりも誠実という皮肉

*2:映像では「流れの変わる場所」となっているがこれは誤植とのこと