スケボーと友情の交差を描く「SK∞ エスケーエイト」。4話の勝負は凡人・歴 対 絶対王者・愛抱夢。無謀極まりない対決だが、一方で少年漫画としては定番の逆転シチュエーションでもある。下から上への逆転というその王道はしかし、彼だけのものではない。
SK∞ エスケーエイト 第4話「愛のマタドール、愛抱夢」
(公式サイトあらすじより)
1.歴の積み上げる勝利の方程式
実也への侮辱を取り消させるため愛抱夢へのビーフ(決闘)を申し込んだ歴だが、実也からスライム呼ばわりされたように彼の実力はけして傑出したものではない。前半彼が言われるのは愛抱夢に勝つのがいかに難題か――下から上に逆らうものであるか――ということだ。最強格のスケーターの1人・ジョーは警告し、実也は日本代表候補のトレーニングですら不十分と断じる。シャドウの調査によれば病院送りにされたスケーターの数は両手足で足りないほど。歴が愛抱夢に勝てると思っている人間は1人もいない。おそらく、歴自身も。
しかし同時にこの前半に満ちているのは、そういう上から下へ流れるような道理への抵抗だ。ジョーの忠告を聞いても諦めることなく、アスリートとして実也が心がけるような節制の取れた食事ではなくファーストフードを頬張り、同時に前回の実也の必殺技とも言える難トリックの習得に励む。無理に挑むことは道理に反旗を翻す行為、「ものは上から下へ落ちるって決まってる」ことに逆らう行為なのだから、歴にはその意気込みが満ちていると言える(それでも上から下に落ちてしまうボードを拾うのがランガなのはとても示唆的だ)。
実力は劣ろうと歴の気質は確かに主人公にふさわしいものであり、彼は逆転への道を一歩一歩歩んでいると言える。ただしそれはあくまで、相手が上から下へ落とす道理だけの使い手であればの話だ。
2.逆転勝利の方程式はしかし、同じ方程式を持つ相手には勝てない
歴が道理に逆らう訓練の日々を積む一方、挿まれる愛抱夢こと神道愛之介の描写はとても道理に基づくものだ。名家の家名を重んじ、親族のお仕着せじみた愛情にも笑顔と感謝を絶やさない。上から下への流れにけして逆らわないおぼっちゃま。しかしその姿は"仮面"に過ぎない。愛抱夢としての彼はとことん、その逆である。
晴れやかな笑顔を取り戻しかけていた実也に水を差し、その侮辱に怒る歴に興味を示さず、彼を舐めきってリードさせる時間を表の姿ではできない喫煙の満喫に当てる。Sというフィールドの中で愛抱夢として存在する時、彼は不道徳であり不合理だ。不道理だ。絶対的なスケボー強者としての実力は、彼に"上"への反逆を許す最大の手段なのだろう。
相手もまた下から上へと逆らう存在であるなら、歴の積み上げたドラマは少なくともそれだけでは勝利の必要条件を満たさない。より大きな道理への反逆――相手を追い抜くのではなく接触並走して恐怖を味わわせる恐怖の滑り、そして「下から上へ」という反逆そのものである坂を登るトリック、ラブ・ハックの前に敗れざるを得ない。
愛抱夢に勝つならもっと別のドラマが、別の方程式がいる。ランガは果たして次回、それを獲得できるのだろうか。
感想
というわけでエスケーエイトの4話レビューでした。こんなラスボス然とした子安にどうやって勝てばいいのだ……!?滑ってるだけなのに悪魔を感じてしまうおっそろしい回。煙草がスケートボードで踏み潰される様子に歴の運命が決まった感があって肝が冷えました。
同時に、実也とシャドウも交えた4人でワイワイやってるところとかとても楽しい回でもあり。アンチヒーローであるシャドウ、沖縄に雪を降らせるランガがハンバーガーを道理に反した数量食べるのはとても納得。どうなってるのランガの胃袋。チェリー&ジョーの愛抱夢との因縁など、ますます楽しくなりそうで期待が高まります。