全ては認識から始まる――「裏世界ピクニック」1話レビュー&感想

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
ネットの発達した現代の新たな怪談を描く、「裏世界ピクニック」。1話冒頭、主人公の紙越空魚(かみこしそらお)は裏世界で自分が死んでも誰も気にしないだろうと考える。それはつまり彼女が世界から認識されていないということだ。この1話で認識と存在が直結しているのは、けして怪談くねくねだけではない。
 
 

裏世界ピクニック 第1話「くねくねハンティング」

 
紙越空魚は、実話怪談として語られる怪異が徘徊する〈裏世界〉の存在を知り、たびたび探検していた。 ある日、怪異に遭遇し、身動きが取れなくなってしまった空魚の前に、一人の美少女が現れる。彼女は仁科鳥子。 ある目的があって、この〈裏世界〉を探索していた。怪異「くねくね」から逃れるために、二人は行動をともにする。
 
 
 

1.紙越空魚は「鏡の塊」

認識と存在はもともと密接に繋がっているものだ。便利な道具があっても知らなければ(認識していなければ)無いも同然だし、自分と異なる環境で育まれるものを認識するのが困難だから他者への思いやりを欠く。認識していないものは、存在しない。自分が死んでも学費でしか認識されないという空魚の分析は、自己の存在の分析でもあるのだ。
しかしならば空魚が積極的な認識を求めているか、と言えばそういうわけでもない。連絡先を教えてほしいという申し出ははぐらかしたし、1人での食事を苦にしてもいない。裏世界を一人ぼっちで独り占めしたいと考えていたことからも、彼女はけして孤独を嫌うタイプの人間ではない。大きな不満は無いがどこか物足りなくもあり、さりとてそれを埋めるに足るものは周囲には無い――と空魚はおそらく「認識」している。
空魚は自分は世界に存在を認識されていないと感じているが、同時に彼女自身も周囲の人間をまともに認識していない(さほど関心を払っていない)のである。
 

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研
空魚にとって裏世界とは、彼女が見ている世界の具現に等しい。そして他者をまともに認識していない彼女は見ようによっては、くねくねを倒した後に転がっていた鏡の塊と同じだ。その鏡の正六面体は世界を映すが人は映さない。認識せず、関心を持たない。
そんな空魚と同じものを見つけた(認識した)のが、仁科鳥子(とりこ)であった。
 
 

2.認識は発見である

容姿も性格も空魚とまるで違う鳥子は、裏世界に関しても空魚を驚かせてばかりだ。銃がたまに転がっている、鏡の塊は高値で売れる、それを落とすくねくねを狩りにいく……どれも空魚1人では思いもつかなかった。つまり、認識することは叶わなかった。
しかし、認識したならそれはもう存在するものだ。自分と鳥子の関係が共犯者であると認識すれば意識はそこに引っ張られるし、思ったよりいい奴と認識すれば印象も改まる。倒せる方法があると認識したなら、絶望的に思えた状況にも活路の存在が見えてくる。
空魚がくねくねを見て、認識して、存在させてそれを鳥子が撃つ。夢中で実行した奇策に成功した後で、空魚と鳥子が逃げ出すほどの恐怖をようやく覚えるのはこうした認識と存在の関係を端的に示している。恐怖の対象の実在/非実在は、恐怖自体の存在/非存在には関係ないのだ。
 

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研

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©宮澤伊織・早川書房/ DS研

空魚「裏世界は独り占めしたい場所だった。思っていたより怖くて異様な場所だと知ってからも、その気持ちは変わらなかった」
空魚「でも今は、この変な女となら一緒に遊んでもいいかな、と思い始めていた」

 

 
かくて、裏世界を独占したいと考えていた空魚は、ここで鳥子と遊んでみてもいいと思い始めていることを認識する。認識したなら、そういう自分は既に存在している。鳥子に発見(認識)された空魚はきっと、裏世界と共に新たな自分の存在も認識していくことだろう。
 
 

感想

というわけで裏世界ピクニック1話の考察・レビューでした。1話から書き上げに大遅刻!申し訳ありません。最初は作品の方向性が掴めていないというのもありますが、4回見ても何を書いたものかさっぱり分からず、5回目で兆しが見え6回目でようやくこれを書くことができました。最近は2回程度の視聴では空を掴むような手応えになることが多いのですが、疲れてるのか衰えてるのか袋小路に入っているのか。主人公の性格もちょっと掴みづらかったのですが、こうして書いてみる分には親近感の湧かないでもない傲慢さだ。
 
来週もこんなに手こずるのは勘弁願いたいですが、思った以上にレビューし甲斐のある視聴時間になりそうです。