別れと出会いを共に描く「ガールズ&パンツァー 最終章」。第3話は撤退を覚えた知波単学園との戦いが長時間続く。「続く」……それは前回の相手との決着を前半でつけ、後半は次の相手との戦いでヒキにする本作の構成にも言える。「続く」の持つ意味とはなんだろう。
ガールズ&パンツァー 最終章 第3話
冬季無限軌道杯第2回戦。勝利のため、あらゆる「突撃」を駆使した戦法で迫り来る知波単学園に、大洗女子学園は大苦戦!ジャングル、そして夜戦という環境の中、 追い詰められたみほ達に逆転の一手はあるのか?他校の試合も見逃せない!行方はもはや予測不能!?それぞれに白熱する試合模様!勝利をつかむのは、果たして――!?
(公式サイトあらすじより)
1.変わり続ける知波単
大洗を苦しめる強豪へと成長した知波単学園だが、彼女達は突然強くなったわけではない。弱さの原因である突撃癖の解消は、劇場版での初登場以後少しずつ少しずつなされてきたものだ。2話の「遠隔突撃」「ごきげんよう突撃」といった思わず笑ってしまう戦い方も、変化が持続的なものだからこそだろう。持続的な変化はつまり、「続く」変化である。
撤退の学習は知波単にとってターニング・ポイントと言える変化だったが、彼女達の変化はけしてそこでは止まらない。夜戦慣れした自分達の長所を活かして大洗を翻弄した上で副隊長の玉田が進言したのは「突撃」――けして悪癖に立ち戻るのではなく、有効性を認識した上での原点回帰であった。実際、彼女達はフラッグ戦だからこそ負けたものの、「突撃」「撤退」の選択は間違えずみほのあんこうチームを撃破すらしてみせた。
「突撃」「撤退」の先の、今以上に戦略的な成長。知波単が今後「続け」るべき変化が示されたのが2回戦の決着だったと言える。
2.過去との接続で変わるエリカ、変わる黒森峰
変化は一瞬で終わるのではなく継続するもの。それを示しているのは知波単だけではない。エリカを隊長に迎えた新生黒森峰も同様だ。
「伝統に囚われない新しい戦い方」によってプラウダを打ち破るエリカの快挙は、過去を切り離して全く新規に始めたようにも見える。しかし見逃してはいけないのは、エリカは以前自分の乗っていた戦車に戻ったからこそ調子を取り戻した点だ。まっさらなままでは、彼女は進めなかった。
副隊長を務めた時の自分との連続性――すなわち「続く」変化として隊長就任を捉えたからこそ、エリカは自分の戦車道を見つける第一歩を踏み出せた。彼女の未来の変化のためには、過去こそ必要だったのである。
3.継続高校が体現するもの
変化は過去あってのもの、継続するもの。知波単と黒森峰の提示したテーマを引き取るようにして準決勝は描かれる。大洗の次の相手を務める「継続」高校が担うのは名前通り継続の強みであり、大洗への変化の問いかけである。
フィンランド軍がモデルの彼女達にとって戦場が雪原なのは日常の継続であるし、雪だるまに戦車を隠す作戦はその場の思いつきではなくかねてより考えていたもの。ゲリラ戦法も先輩から継続するお家芸。彼女達の全ては"継続"の上にある。
そしてもっとも大きいのは、彼女達の攻め方が知波単からの"継続"性を持っている点だ。すなわち、大洗の要であるみほ率いるあんこうチームへの攻撃。
主役だから当然ではあるが、あんこうチームの役割は大きい。大洗の顔であり、指揮の要であり、逆転の起爆剤であり、ここぞの場面でドラマティックな活躍を運命づけられた最重要チーム。フラッグ車は試合ごとに変わるし各校にも顔役の隊長はいるが、指揮官としての役目が最重要な他校のそれ以上の重責をみほ達は背負っている。*1彼女達あればこそ、大洗は大舞台で勝利を掴んできた。「あんこうを制すれば戦車道を制す」はけして大げさな言葉ではない。
フラッグ車への目配りこそ欠いたものの、知波単があんこうチームを集中攻撃したのは間違いなく正しい。そして、ピンポイントであんこうチームを狙撃した継続高校の戦術は知波単の延長上――すなわち"継続"の先に立った作戦だ。それは攻撃の代償に知波単が晒した隙を持たない、あまりにも鮮やかな一撃であった。
大洗の戦いは基本、みほの作戦を土台に生まれてきた。彼女の延長線上に各チームがあり、敵を打ち倒してきた。そのみほが退場する以上、他の皆はそこから外れた戦いをしなければならない。これまでから「変化した」戦いをしなければならない。
しかしこの第3話が描いたように、変化とは過去あってのものであり継続の先に生まれるものだ。例えみほが不在でも、それは過去が消失してしまったわけではない。みほと一緒の戦いが消失してしまったわけではない。
残された皆が、いかにして己の戦いを過去の戦いから「続く」ものとして捉えられるか。継続高校との試合の鍵はきっと、そこに隠されているのだ。
感想
というわけでガルパン最終章第3話のレビューでした。2話が2019年6月公開とのことで、およそ1年9ヶ月ぶりとなりますね。そんなに経ってるとは思わなかったんですが、2020年は特別だしまあ。レビュータイトルは当初「革新は継続の先」と考えたのですが、題だけでネタバレになるのでやめました。
過去の扱い、という意味で示唆的なお話だったと思います。大洗vs知波単戦が12時間を越える長期戦になったように、継続するのはとても骨が折れる行為です。それで事態が解決しないと私達はしばしば「いつまでくだらないことやってんだ」「他にもっと重要なことがあるんじゃないか」とうっちゃりたくもなりますが、それは過去を切断し学習を放棄する行為でしかない。鳥や天才でもない私達は過去を踏まえずには変われないし、そうしなければ何度でも同じ轍を踏む羽目になる。
長い付き合いから生まれた長い付き合いになる最終章は、そういうことを教えてくれるお話になるのかなと思いました。
話数としてはここで折り返し。続きをまたじっくり待ちたいです。
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— 闇鍋はにわ (@livewire891) March 26, 2021
*1:この最終章では名目上の隊長は河嶋桃になってはいるが