まばゆい星々を描く「かげきしょうじょ!!」。物語はさらさと愛を中心としたこれまでの話に限らぬ新たな一面を見せる。5話は愛と彩子による「二つの劇」を通して一つのことを教えてくれるお話だ。
かげきしょうじょ!! 第5話「選ばれし乙女」
1.1つ目の劇:「ベルばら」からの挑戦状
さらさ「えーと……他の演目はよく知らなくてですね……」
今回のアバンはベルばら以外の演目をよく知らないさらさと、今日の観劇で他にも素晴らしい舞台を知ってもらおうとする紗和のやりとりから始まる。オスカル様一直線のさらさらしい場面だが、これは実は私達視聴者が置かれている状況と同じだ。これまでの4話はあくまで、主役であるさらさと愛の二人にのみスポットを当てたものだった。彼女達の関係は本作におけるベルばらであり、見る者を惹きつけてやまない――だがもちろん、紅華の演目がベルばらだけではないように本作の登場人物も二人だけではない。紅華オタの紗和や双子の沢田姉妹を始め、ドラマを秘めた少女は既に幾人も姿を見せている。
さらさ「さらさはずっと、愛ちゃんと初めて会った時からずっとずっと、お友達になりたいって思ってたんです」
しかしあくまで作品の主役ではない少女達に、さらさと愛というベルばらに匹敵する輝きを放つことができるのか? 彼女達に課せられたハードルが極めて高いことを、5話の序盤はほとんど圧倒するように見せつける。起きているのは「愛がさらさと友達になりたいと言う」だけの話だが、ただそれだけの出来事にこれまで4話二人を見てきた私達の胸はいっぱいになってしまう。さらさの演技につられて皆が夕空に満天の星を幻視してしまうように、彼女と愛のやりとりはただそれだけで現世を演目へ変える力を持っている。これが5話の「1つ目の劇」。
薫「ちょ、なんでそこで山田が泣くのよ」彩子「だって、なんかホッとして……」
存在そのものがスターじみたベルばらな二人に対して、それ以外にも素晴らしい舞台の存在を証明する大役を任された少女。それはさらさと愛の和解に誰よりも魅了されていた、「観る側」であった山田彩子であった。
2.2つ目の劇:ベルばらになれぬ少女の悩み
彩子(わたし、どうしてここに入れちゃったんだろう……)
「2つ目の劇」の主役である山田彩子は悩んでいる。ダンス講師の橘に指摘された体重の問題は視覚的だが、それに限らず彼女は自分と同級生の実力差に悩んでいる。何せ講師の太一や安道からの第一印象が「普通」だった彩子は見た目に華がない。……そして「やりたいことがない」。
回想される彩子の合格までの日々は姉とのやりとりもあって感動的だが、ゴールは紅華への入学に設定されている。だが1話から示されているように、入学は更なる競争の始まりであって終わりではない。男役や娘役のトップになりたいといった願いも無しに続けるなら、終わりなき競争の軸は他人からの評価だけになってしまう。過食嘔吐の末に咽頭炎で声が出づらくなった彩子の状態はすなわち、自分と自分の声を見失ってしまった彼女の精神そのものだ。
今の彩子に必要なものは何か? もちろん、自分を見つけ直すことだ。紅華での日々に新たな目標(ゴール)を見据えさせることだ。故に彼女の再起は、エトワールという目標の設定によって果たされる。大階段を真っ先に降り、そのアカペラでグランドフィナーレの始まりを告げる歌姫。それは確かに男役や娘役のトップ――すなわちベルばら的なものとはまた異なる輝かしき目標であろう。
休養を終えて復帰した彩子は、さらさから楽譜を借り受けその歌声を響かせる。彼女が借り受けたのは楽譜であると同時に、今回のもうひとりの主役の証だ。男役を志望するさらさは使わない、しかし憧れずにはいられないソプラノによって、彩子は見事にベルばら以外の素晴らしき舞台を、「2つ目の劇」示してみせた。そしてこの二つの劇は、全く別個のようでそうではない。
3.共鳴する二つの劇
彩子の今回抱えた悩みは畢竟「自分の声を出せない」ことであったが、これは別に彼女に限った話ではない。彼女が自分とは次元が違うと考えていた愛もまた、同じ悩みを抱えている。
今回愛は、さらさに謝りたいがどうすればいいか分からないと悩んでいた。自分の気持ちをどう言葉にすればいいのか、悩んでいた。そんな愛に太一がしたアドバイスを思い出してみよう。
太一「相手によく思われたいなんて考えちゃ駄目だよ。頑張って、勇気を出して、自分の気持ちを愛の言葉で正直に伝えればいい」
太一のこのアドバイスはすなわち、相手だけを評価軸にせず自分を見失わないようにという励ましだ。それは彩子が抱えた悩みにも通じる助言であり、愛は今回彩子に先んじて同じ道を歩んでいたと言える。
愛は確かに今回、さらさと和解した。しかしそれは全てが終わったというわけではなく、さらさを下の名前で呼ぼうとしてもできないしそのコミュニケーションも不器用そのもの。けれど今の彼女はめげてはいない。彼女と一緒の舞台に立ちたいと目標を見つけた愛は、それに向けて一歩一歩進み続けている。抱えていた悩みがそうであったようにそれはきっと、エトワールになりたいと目標を見つけた彩子のこれからの歩みと重なるものであろう。だから今回のラストで彼女は、次元が違うと考えていた愛が自分と同じように悩んでいることに安心するのだ。
終わりなき競争は苦しい。だが、目標への果てなき日々なら人は前に進んでいける。今回描かれた二つの劇は、共鳴して同じ一つのことを教えてくれているのである。
感想
というわけでアニメ版かげじょの5話レビューでした。やーすごいですね、前半の感動が上げたハードルを後半がきっちり超えて、振り返ってみれば両者が共鳴している。30分の話としての構成がとても良い。レビューの方を書き終えて思ったのですが、さらさと愛の和解に最初に彩子が涙するのってエトワールの役割と重なるところがあるのかもしれませんね。
あと飛田展男演じる小野寺先生の励ましがホント堂に入ってて。「ベルばら以外にも素晴らしい舞台がある」のを証明してるのはこの人も同様なのだと思います。全編素晴らしいものを見せてもらいました。
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共鳴する二つの劇――「かげきしょうじょ!!」5話レビュー&感想https://t.co/5oWKPHZhIw
— 闇鍋はにわ (@livewire891) August 1, 2021
今回はさらさと愛の和解、そして彩子の挫折と再起が30分で描かれる構造の効果について。#かげきしょうじょ!!#kageki_anime#kagekishoujo #アニメとおどろう