恋の花道、夢の銀橋――「かげきしょうじょ!!」8話レビュー

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
夏の先へ歩む「かげきしょうじょ!!」。星野薫を主役とした8話では、紅華入学前の彼女のひと夏の恋と続く今が描かれる。出会いの場所だった海の見えるバス停は、薫にとってどんな場所だったのだろう?
 
 

かげきしょうじょ!! 第8話「薫の夏」

 

1.日傘で守るもの、守れないもの

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星野薫はプロ意識の強い少女だ。ロミオとジュリエット自主練習の時もそうだったが舞台外でも女優としての自覚を忘れず、日焼けして帰ってきたさらさと愛のうかつさを見逃さない。紅華にふさわしい自分であろうとする意識は入学前から始まっていて、休みの間も終わることがない。彼女にとって日焼けは、世俗に染まる象徴である。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
日焼けが世俗に染まる象徴であれば、高校時代の薫が日除け対策を欠かさないのは肌だけでなくその意識をも太陽から、世俗から遮るための防衛行動だ。普通の女子高生のように遊びや恋を楽しむ日々に彼女は背を向け、白い肌と白い意識を守ろうとする。全ては紅華に入り女優となるため、紅華に入れる自分であり続けるため。だが夏がもたらすのは強い日差しだけではなく暑さもで、薫はそれについてはこう述懐する。「日焼け対策は万全だけど、この暑さだけはどうにもならない」と。
 

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日焼け対策はできても暑さだけはどうにもならない。それは、自分を律する意識の強い薫も世俗から無縁でいられるわけではないということだ。周囲はどうあっても元紅華女優の祖父母や母と薫を比べるし、足踏みしている自分を追い越しさっと紅華に入ってしまう者もいる。意識高く自分を守ろうとも、プレッシャーはその心を焼いてくる。そんな折に出会ったのが同じく薫と同じく高校3年の球児・辻陸斗であった。
 
 

2.日差しを避けられる場所で見えるもの

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薫「あなたとわたし、ちょっと似てるなあって」
 
薫と陸斗が出会った海の見えるバス停は屋根のあるスペースで、中にいれば日差しにさらされる恐れがない。だから薫も日傘を差さない。それは、彼女が自分を律することなく自分でいられる場所であることを意味する。そして、そこで出会った陸斗は確かに自分と少し似ていた。メジャーリーグに行くほどの野球選手を兄に持つ陸斗はしかし自らは結果を出せておらず、それは紅華の入学試験に落ち続けている薫と重なるものだったからだ。
 

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陸斗「俺真っ黒だから、オセロみたいだな」
 
二人は本来、出会うはずの無い人間だった。薫がそのバス停を使うのは入院した祖母の見舞いのためだったし、世俗から一人白い肌を守り続ける彼女とナイン目指して真っ黒に日焼けした(=世俗にさらされ続けている)陸斗は対照的で、接点も何もないはずだった。日の差さぬバス停だからこそ、二人は心を焼かれている自分と同じものを互いの中に見つけることができたのだ。初めて見つけた「同類」に二人が惹かれ合うのは、必然だったと言える。
 

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共に心を焼かれているが故に生まれた二人の恋は、しかしそれそのものが二人を焼きもする。暑さは増していく。紅華に入るための浜辺のランニングを走りきれない彼女のスマホに届くのは、焦がれてしまう陸斗からのメッセージだった。
 
 

3.恋の花道、夢の銀橋

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恋への戸惑い、未だ結果を出せぬ自分への焦り。悩む薫は陸斗に誘われ、花火大会に赴く。劇中でも言及されているが、二人がバス停とバスの中以外で顔を合わせるのはこれが初めてだった。夜だからもちろん日傘を差す必要はなく、浴衣を着た彼女はいつものように肌を隠していない。
だが、それは自分を律する必要がないかどうかとは別問題のはずだ。太陽が沈んでいようと、夜の日差し・・・・・に薫は肌を晒してしまっている。好きな相手がいて、一緒に花火を見に行って――それは彼女が背を向けてきた「普通のJK」そのものだった。
 

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だから薫は結局、その夜の日差しから、花火から背を向ける。4度出場の機会を逃し(これは陸斗にとって4度の「紅華入学試験失敗」なのである)自分の主体を見失ってしまった陸斗と決別し、一人浜辺を*1走る。濡れた波打ち際が鏡のように反射するのは、それが限られた人間だけが渡れる銀橋だからであろう。同時に、押し寄せる波は浴衣の薫を――「普通のJK」を押し流していく。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
あのバス停で薫と陸斗が会うことはもうない。恋が終わった以上そこから生まれるものはもうなく、髪型の変わった二人からその面影は薄れている。けれどそれはバス停が、あの日々が消えたことまでは意味しない。さらさが見つけたSNSを通じて、薫は陸斗がバス停に貼り出した伝言を知る。彼もまた、自分なりに夢への道を歩き続けていることを知る。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
 
薫と陸斗の恋は叶うことがなかった。けれど、その結末を二人は後悔していない。ならばバス停もまた、いまわしき思い出などにはならない。
途切れた恋の花道が夢の銀橋へ続いていた証として、海の見えるのバス停は二人の心に残り続けるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版かげじょの8話レビューでした。また……またなんという話を……今年の話数単位10選で推すのは5話とばかり思っていたのだが、これまた悩ましい。こんなん薫を好きになるなと言う方が無理。EDクレジットが薫と陸斗の二人をメインに据えてるのを見るだけで胸を鷲掴みにされてしまう。前回のさらさの話からの連続性も素敵でした。
さてさて、次回は再びロミオとジュリエットが話に絡んでくるようですが、夏休みの宿題とも言える課題にさらさ達はどう挑むのでしょうね。
 
 

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*1:一度は止まってしまった浜辺を!