「一人じゃないから」の意味――「ラブライブ!スーパースター!!」3話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
ステージに歌声響く「ラブライブ!スーパースター!!」。3話で再び歌えなくなったかのんは最終的に再起し、「一人じゃないから」歌えると言う。よく使われる台詞ではあるが、今回彼女の言う「一人じゃない」とはどういう意味なのだろう?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第3話「クーカー」

スクールアイドル活動を続けるには、地元の代々木スクールアイドルフェスで1位を取らなければならない。千砂都と可可は、人前で歌えないかのんが歌えるようになるよう、あれこれ試すが、結果は出ない。落ち込むかのんに可可は、今回のライブは自分一人で歌うから、一緒にステージに立ってと、笑顔で励ます。そんな中、かのんたちが出るイベントに、全国屈指の強豪グループ「サニーパッション」が参戦する知らせが入ったのだった。
 
 
 

1.澁谷かのんの優しき傲慢

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
かのん「わたしのせいで、わたしのせいで夢を諦めなきゃいけないなんてなったら……申し訳無さすぎるよ!」
 
今更言うまでもないが、澁谷かのんは優しい娘だ。再び歌えなくなっても苛ついたりはせず、フェスで一位を取らなければならない状況をまず心配する。自分が歌えないせいで可可の夢を閉ざしてしまったら申し訳無さ過ぎると涙する彼女の姿は、他人への思いやりに満ちている。だが、それは必ずしも褒められることばかりではない。
 
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
かのん「消して」
 
スクールアイドルのライブは歌声だけで成立するものではなく、ダンスや衣装、複数人でのパフォーマンスなど様々な要素で構成されている。にも関わらず自分の歌声一つで結果が変わるというのは、比重の捉え方としておかしい。意地悪な見方をすれば、かのんの考え方は傲慢だ。
もちろん彼女が可可を頼りないと思っているだとか、自分を過信しているということはないだろう。かわいらしい衣装が自分に似合わないと遠慮してしまうやりとりからは、むしろ彼女の自己評価の低さが伺える。傲慢さは自信の有無で生まれるものとは限らないのだ。背負わなくてもいいものを一人で背負う行為は、それだけで傲慢である。
他人を思いやれるあまり自分一人・・で多くを背負ってしまう少女。それが澁谷かのんなのだ。
 
 

2.解け始める呪縛

かのんは歌えない自分に、足を引っ張る自分に絶望して何度かフェス出場を諦めようとする。一人で背負えないならできない、やってはいけないとしか彼女は考えない。一人で背負ってしまう思考は傲慢であり、そして極端だ。
 

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可可「そもそも可可が日本に来ようと思ったのも、この方々のライブを見たからなのです!」
 
しかし世の中はかのんが思うほど、背負おうとするほど彼女中心に回ってはいない。可可はかのんのことが大好きだが神津島のスーパースクールアイドル・サニーパッション(以下サニパ)のことも信奉と言っていいほど愛してやまないし、そのサニパがフェスに参加するとなればかのんが歌えようが歌えまいが優勝の可能性はなくなってしまう。「一人」で背負おうなどと思うことがどだい間違っているのだ。
 

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可可「かのんさんの歌を初めて聞いた時、それと同じくらいワクワクしたんです。だからもう、かのんさんはわたしにとってのスターなんです。夢なんです!」
 
ただ、一人で背負えなければ意味がないかと言えばそれもまた間違いだ。可可は千砂都もスクールアイドルに誘うがそれは歌えないかのんに見切りをつけたりしたわけではないし、サニパを初めて見た時の感動の大きさはそれと同じくらいワクワクしたのだとかのんへの肯定の言葉に繋がる。
 
一人で背負えなければ意味がない、最高の一人でなければいけない……かのんの優しさ故の傲慢は、可可の言葉によって少しだけ解けていく。
 
 

3.「一人じゃないから」の意味

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歌えなくてもいい、ステージに立つだけでもいいという可可の優しさに助けられ、かのんは自分一人で背負おうとする気負いから少しだけ解放される。だが、一人で背負わないだけではまだ呪縛が解けたとは言えない。
 

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可可「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」
 
ステージ開始直前、かのんが耳にしたのは可可が呪文のように自分に繰り返す「大丈夫」の言葉だった。背後にあったのはいつも目にする彼女とは違う、緊張と恐怖に震える姿だった。かのんの前では笑顔で振る舞っていた彼女はその実、緊張しきっていたのだった。
 

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可可は心の強い娘だ。スクールアイドルがやりたい一心で上海から日本へ来て、葉月に妨害されながらも屈することなく、歌えないと嘆くかのんをそれでも諦めない。かのんほどの歌唱力はなくとも、その精神的なタフネスはかのんの及ぶところではない。
けれどそんな彼女であっても、自分だけで歌うかもしれない緊張に耐えられるほど強くはない。ステージの全てを「一人で」背負えるほど強くはない。かのんは確かに自分一人で背負う呪縛から逃れかけていたが、それは可可一人に全てを背負わせてしまうものでもあったのだ。
 

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可可「かのん!見て!」
 
一人で背負おうとしてはいけない。一人に背負わせてもいけない。トラブルで電源が落ち暗転したステージは、にっちもさっちも行かない二人の状況を象徴するかのよう――だが、そこにも灯りはともる。千砂都やかのんの家族、観客の振るブレードがステージを照らす。そう、照明はステージのもの「たった一つ」ではない。
たくさんの観客の振るブレードはどれか一つが中心にならず、しかし確かにステージを照らしてみせる。ステージのアイドルの輝きは確かにひときわ眩しいものだが、それだけが全てを背負うわけではない。
 

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かのん「歌える、一人じゃないから!」
 
1話で描かれたのは、かのんにとって歌とは自分を表すものであるということだった。自分は歌が好きなんだと、彼女はそこで存分に歌った。だがそれは彼女が一人で歌ったものであって、可可と一緒に皆の前で歌うなら先へ進まなければならない。
一人で背負わない。一人に背負わせない。かのんと可可は今回そういう、「一人じゃない」の意味をこそ歌い上げていた。
 

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かのん「でも全然後悔してないんだ。だって、可可ちゃんと約束した最高のライブができたから!」
 
かくてフェスは終わり、クーカーは新人特別賞こそ受賞したものの活動存続の課題だった一位を取ることは叶わなかった。けれどかのんは、その不安に押しつぶされたりしてはいない。課題が叶わなかったとしても、可可と約束した最高のライブはできた。フェスで彼女たちが進むべき道も、けして「たった一つ」ではなかった。
 
私達はしばしば「他に選択肢がない」と不満足な選択を正当化しようとする。諦めようとする。けれど私達が考えるより本当はずっと選択肢は豊富で、そこには少しだけ未来を変えるヒントが隠されている。
 
一人で背負わない。一人に背負わせない。そして世界は一人で背負えるほど軽くはなく、たった一つの道しか許されないほど狭くはない。「一人じゃない」とは、世界とは、そういうものなのだ。
 
 

感想

というわけでラブライブ!スーパースター!!の3話レビューでした。やー、1,2話復習してから臨んだんですが全然手がかりが見つからず困惑。「一人じゃないから」の言葉と「可可が魅了されたのはかのん一人じゃない」がくっつけられると思いつくまで構想も立てられませんでした。澁谷かのん、改めて手強い娘だ。
 

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
さてさて、次回はギャラクシーこと平安名すみれの本格登場回となりそうですね。これまでのところ一番得体が知れず、故に彼女がOPやEDのような表情をする場面もなかなか想像できません。果たしてどんな娘なのか?ギャラクシー!に期待が高まります。
 
 

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