バカげたことほど愛おしい――「プラネテス」12話レビュー&感想

陽はまた昇る「プラネテス」。12話では人類の命運のかかった事件がコミカルに解決される。今回はバカバカしさへの愛のお話だ。
 
 

プラネテス 第12話「ささやかなる願いを」

宇宙防衛戦線のテロが月面都市で発生。宇宙防衛戦線は宇宙開発に反対し、いたる所でテロを起こしている組織であった。そんな折、メンテナンスを終えたToyBoxでデブリ回収に出たフィー達は、そこで宇宙防衛戦線のミサイルを発見。その時、同時に世界に放送されるテロ宣言。ミサイルの向かう先はISPV-7。メンテナンス中のISPV-7には防ぐ手段が無かった…。
 

1.理知的なテロリスト

今回の話では「宇宙防衛戦線」なるテロ組織が登場する。人類が宇宙に出たのは誤りと考え宇宙開発を全て無に帰そうとする乱暴な人間の集まりだが、主人公ハチマキ達の住む宇宙ステーション・ISPV-7へのデブリ攻撃を前にした声明はなかなか理知的なものだ。
 
コートの男「文明の発達と引き換えに有限なエネルギーを食い荒らす!人類の性質になんら変わりはなかった!人類は前世紀の過ちに何も学ばなかったのだ!」
 
彼らが宇宙開発を誤りと考えるのは、宇宙に出るようになっても人類が愚かさを捨てられないからだった。この世界はエネルギー源が化石燃料から月のヘリウム3に変わっただけで、有限の資源を食い潰す生活も国境線を巡って仕掛ける戦争も旧世紀と何も変わっていない。そういう繰り返しに絶望したからこそ、宇宙防衛戦線はテロという卑劣な行為までして宇宙開発を止めようとしている。私は彼らの声明を理知的と評したが、つまり人類に「理知的になれ」「賢くなれ」「繰り返すな」というのがこの組織の主張なのだろう。……だが、人間はそんな論理的になれる生き物ではない。
 
 

2.人間の証明

人間は理知的でも賢くもなければ、繰り返しを止められるほど革新的でもない。それを象徴するアイテムとして、この12話は一つの嗜好品にスポットを当てている。そう、デブリ課のデブリ回収船ToyBoxの船長・フィーのトレードマークとも言える煙草だ。
 
職員「言わせてもらうけどねえ、宇宙で煙草吸うのがどれだけ非常識か自覚してる?この世界じゃ空気が何より大事なもんなんだよ」
 
煙草というものは全くバカげている。煙によって喫煙者はもちろん周囲の人間の肺を汚し、依存性が強く、ストレスが発散できるというのはニコチン切れの離脱症状の緩和に過ぎない。劇中でもフィーは嫌煙運動家の説教に反発しつつも反論できないが、それは理知的に論理的に、賢く考えれば煙草には擁護の余地がないのを彼女も分かっているからだろう。
 
フィー「煙草吸ってくる!隣の工場都市まで!」
 
宇宙防衛戦線のテロの影響で喫煙できないからとトイレでライターを点火したり、喫煙ルームを求めてわざわざ隣の都市までバギーを走らせるフィーの行動はバカバカしく・・・・・・、しかし人間味にあふれている。煙草が吸いたくて吸えずテンションがおかしくなっていく彼女の姿には、ともすれば架空のキャラクターが失いがちな生気が満ちている。そう、理知的でも賢くもなく、性懲りもなく喫煙を繰り返そうとするこのバカさ加減こそ実際は人間に欠かせないものなのだ。
 
 

3.バカげたことほど愛おしい

人間というのは全くバカで愚かな生き物だ。後輩のタナベと航宙課のチェンシンのデートに不機嫌な自分を頑なに認めようとしないハチマキも、彼が同期のリュシーから告白されたと勘違いしショックで逆にチェンシンとのデートに全力投球になってしまうタナベも、その行動は全く理知的でも賢くもない。そしてそんな二人やフィーを眺める私達だって、彼らと同じでなくとも理屈に合わない行動をいくらでもしてしまっているはずだ。ソシャゲへの課金、積んでしまう本やプラモデル、エトセトラエトセトラ……論理的に考えるなら、時間や金にはもっと有効な活用方法がいくらでもある。だが、それを理解しながらもバカげた振る舞いをやめられないのが人間というものだろう。
 
人は愚かさを捨てられない。バカげたことの繰り返しから抜け出せない。人類に消尽と諍いの歴史を繰り返さぬよう求めた宇宙防衛戦線の男にしても、テロという暴力的な手段から逃れられずまた彼自信も非論理的な喫煙を止められなかった。彼はISPV-7へデブリをぶつけそれきっかけとした大量のデブリで地球と宇宙の断絶……つまり愚かな繰り返しからの断絶を目論んでいたが、そんなことをしてもきっと人間は変わりはしなかったろう。それはこのテロの阻止が酷くバカバカしい方法で為されたことが証明している。
 
フィー「はっはー!ジャストミートぉ!」
 
タイミングの悪さ(?)もあって迎撃できずISPV-7へ接近したデブリを止めたのはなんとデブリ回収船ToyBoxによる体当たりで、デブリとToyBoxは共に地球に落ちて燃え尽きていく。人類の宇宙開発の命運がかかっていることもあり、普通のドラマならこれを覚悟の上の特攻に――つまり理知的で論理的な行動の結果に――仕立て上げていたところだろう。だが本作の体当たりにはそんな美談を作る余地はない。この体当たりは他に手段がないからやむを得ずといったわけでもなく、単にこれ以上喫煙を邪魔されたくなかったフィーが"キレて"ぶちかましただけのものに過ぎないからだ。終わってみればフィーは無事地球に降りることに成功したが、別の軌道に弾き飛ばされる可能性も体当たりで脱出機構が壊れる可能性も十分あった。
 
フィーの行動は本当にただバカバカしいものでしかなかった。しかしだからこそ世界は、いやこの物語は危機を回避している。私達は悲しくなるくらいバカで愚かで過ちを繰り返す生き物だが、しかし理知的でも賢くもないその繰り返しにどこか救われているのもまた確かなのだろう。
 
フィー「生きてるって素晴らしいね」
ハチマキ「知るかっ!!」

 

喫煙室に入らずとも煙草に火を付けられる地球でフィーは念願の一服を果たし、しみじみと生を実感する。彼女の前でいつもと変わらず昇り始める朝日は、人の世のバカげた繰り返しが続くことへの祝福に満ちている。
生きることはバカげたことの繰り返しだ。そして、バカげたことほど愛おしいものはないのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版プラネテスの12話レビューでした。難解という意味では前回より難しかったかもしれない。商品課の発注ミスの尻拭いうんぬんもテーマに取り込めないかなと考えつつ果たせず、おっかなびっくり書き始めてみましたが迷わず書き進められました。
 
ネットの普及もあって自分達の論理性や賢さを容易く信じられるようになった現代、いっそう感じるところのある回だったのではと思います。まあ、そういう話として解釈すると自分と敵対する相手ばかりが都合よく論理と非論理を使い分けてるとうぬぼれるのが人間ではありますが。
 
なんとなく、頭ではなく体を動かしたくなる良いお話でした。次回も楽しみです。
 
 

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