新たなる弾道――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」10話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
好敵手が増える「バーディーウィング」。10話ではイヴの日本での目標が見えてくる。今回はさまよえる弾丸がまっすぐな道を見つける物語だ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第10話「イヴァンジェリンはご立腹」

葵とゴルフ勝負をするために、はるばる日本にやって来たイヴだったが、お目当ての葵は練習試合でしばらく他県に遠征するという。ゴルフ部に入部すればいくらでも勝負できると言われ、入部届を出しに行くが、顧問の亜室に「実力ある者は歓迎するよ…実力があればの話だが」と煽られる。さらに慣れない学園生活もあいまって、イヴのイライラは最高潮に。腹いせに、ショッピングモールに遊びに出かけるイヴ。そこで静岡の強豪・香蘭女子高の伊勢芝九葉と出会い…。
 

1.さまよえる弾丸

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イチナ「イヴさん、むやみに敵増やさないでほしいッス。あとパンツ見えてるッスよ」
 
今回のイヴは荒れている。自分を物珍しげに見る雷凰女子学園の生徒達に吠え、することがないとなれば彼女達をナンパしてショッピングモールで遊興に耽る。イヴのキャディーになりたがっているイチナは彼女を「狂犬」「たらし」と評するが、その暴れぶりはほとんど無軌道・・・とすら言えるものだ。
 

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イヴ「お前が勝負したいって言うからわざわざ日本まで来たんだろうが!」
 
とはいえ、イヴが荒れるのは無理もない話だろう。彼女が日本までやってきたのはマフィアに追われナフレスにいられなくなったせいもあるが、何より好敵手である天鷲葵と勝負するためだ。自分の心を撃ち抜く見事なショットを打つ彼女と雌雄を決するべく、イヴは日本へやってきた――にも関わらず、その目的は果たせていない。
葵はなんのかのと理由を付けて勝負を先延ばしにし、彼女の所属する雷凰女子学園ゴルフ部顧問の亜室も非協力的な態度を取る。目的に向かって弾丸のように進むのがイヴの性分であるが、ゴールが動いていってしまう状況ではどこに向かって"まっすぐ"飛べばいいのか分からないから今回は無軌道にならざるをえないのである。そして、そんな彼女を救うのはやはりゴルフ以外にありえない。
 
 

2.新たなる弾道

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九葉(ラインが……)
 
ショッピングモールで暴れ回るもナンパした生徒が帰宅し、自分がどこに「帰れば」いいのか分からないイヴは、必然としてゴルフの世界に戻っていく。彼女の前に現れた静岡・香蘭女子高ゴルフ部の伊勢芝九葉にゴルフ遊技場でのパッティング勝負を挑まれ、いつものようにその常識はずれのショットで彼女の心を撃ち抜いてしまう。……が、これはイヴらしくあるが本作の本調子とは言えない。九葉は「サーチ・ザ・ライン」の使い手でありカップに向けた理想のラインを正確になぞる力を持つが、これは要するに極めて常識的な能力に過ぎないからだ。全国大会常連の彼女の実力が低いわけはないが、言ってしまえば1話のエレーヌと同じタイプの人間でしかない。イヴが(そして私達視聴者が)「グッとくる」にはもはやそんなものでは足りないのである。
 

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九葉(これが薫子先輩の十八番。意図的に聴覚と味覚、嗅覚を遮断させ驚異的な集中力を発揮させる……その名も「イン・ザ・ゾーン」)
 
イヴにショットに調子を狂わせた九葉の前に現れた香蘭女子高ゴルフ部主将・飯島薫子は彼女と選手交代し、パット勝負でありながらなぜかウェッジのクラブを使用する。より難易度の高くなるアプローチショットでの1ショットを成功させるのは、五感の一部を意図的に遮断して驚異的な集中力を発揮させる能力「イン・ザ・ゾーン」……鹿威しの音と共にカップに向かって連なっていく花のイメージといい、全てが異様だ。そう、その異様さはけして単なる上手さに留まらなかった。
 

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イヴ「仕掛けられたってわけ、あの女狐に」
イチナ「そうッス」

 

イヴに同行していたイチナは、アプローチで高く打ち上げられた球がコースにくぼみを作っていることを目ざとく見抜く。もしカップに向かってそのまま打てば、球はくぼみに引っかかって逸れてしまう。薫子は"まっすぐ打って"も"まっすぐ進まない"よう罠を張っていたのだ。そしてこのくぼみはけして、この小さなゴルフコースだけに生まれたものではない。彼女は、葵というカップに向かってまっすぐ進もうとしていたイヴの前方に自分というくぼみを作ってみせたのである。
 

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イチナ「ボールの位置をここに。イヴさんの最大パットスイングを10だとしたら、6にして打ってください。狙うのはカップじゃなく、あのくぼみに」
 
今回の勝負はしょせん遊技場内の出来事、所属校の名誉もゴルファーの命もかかってはいない*1。けれどここでの出来事は象徴的だ。イヴはこれまで、葵との再戦というカップ目がけてまっすぐ進んできた。けれど彼女との関係はたった一度の再戦で終わるべきではなく、葵はイヴとずっとゴルフを続けていきたいと思っている。
イヴが目指すべきカップは彼女が思っているものとは少し違うところにあり、そこへ進むためにはイチナの助言に従ったような変化が必要になる。ナフレスから雷凰女子学園ゴルフ部へとスタート地点を変え、薫子というくぼみを目指してショットを放つことでイヴはカップへたどりつくことができる。イチナの助言通りにイヴが打った球が見事カップインしたことは、これが物語そのものの縮図である何よりの証明であろう。
 

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薫子「それではイヴさん、全日本高校女子ゴルフダブルス選手権でお会いしましょう」
 
かくて、薫子に再戦を仕向けられた全日本高校女子ゴルフダブルス選手権に向け、イヴは雷凰女子学園ゴルフ部への入部を本心から希望する。葵との再戦のための腰掛けではない、どっしりここに踏みとどまる理由が、戦う意志が彼女には生まれた。ならばイヴは再び、無軌道ではなく前へ進んでいくことができるだろう。
この10話は、言うならば物語そのものがキャディーだ。イヴの球ではなくイヴ自身という弾丸に、物語は"まっすぐ"進む道を指し示したのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの10話レビューでした。ちょっと疲れが溜まってしまっております。夏アニメは体制を見直す必要がありそう。
 

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今回、仕込みにしても街中で抜き身のゴルフクラブ持って話しかけてくる女子高生というのが発想としてメチャクチャで、視聴者が本作の空気に当てられてるのを見透かされてる感があって楽しいです。九葉のデザイン、割と好みなので速攻で格下認定されてしまったのは残念ですが。
強敵を見つけたら腹が減るというのも「飢え」を感じさせて面白かったです。次回も楽しみ。
 
 

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*1:ゴルフで腕の命のやり取りがあるのがおかしいというのはもはや野暮なツッコミである