同じ景色に変わる時――「ヤマノススメ Next Summit」7話レビュー&感想

©しろ/アース・スター エンターテイメント/『ヤマノススメ Next Summit』製作委員会
共に天を戴く「ヤマノススメ Next Summit」。7話では日和田山と高尾山、二つの登山が描かれる。だが、登る山が違っても見る景色まで違うとは限らない。
 
 

ヤマノススメ Next Summit 第7話「初日の出、どこで見る?/クラスメイトと山登り!」

晦日天覧山で初日の出を見ようとあおいの家に集まったひなたとここな。ところが天覧山は大変な混雑だと聞き、あおいの父親とともに日和田山へ向かうことに。前の晩夜更かししたせいで時間はギリギリ。果たしてあおいたちは初日の出に間に合うのか?
 

1.違う道を歩いても

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山登りをしなかった前回から一転、今回は前後編いずれでも山に登る回だ。主人公のあおいは前半は初日の出を見るため日和田山へ、後半は初詣のため高尾山へ登る。ただ、いずれも険しい山を登ることでの達成感には眼目は置かれていない*1。初日の出は手軽に見られるよう近くの山を選んだり、初詣は誘ってくれた級友はケーブルカーで登るつもりでいたことなど、どちらかと言えば日常の延長としての登山が描かれた回と言えるだろう。そして、共通点として挙げられるのはどちらもあおいの想定とは違ったルートをたどっている点だ。
 

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あおい「てっきり皆歩いて登るもんだと……」
ひなた「それはあおいの早とちりでしょう。ふつう初詣でそんな気合入れないって」

 

初日の出については、あおいは当初天覧山で朝日を見るつもりでいた。しかし当日になって父から元旦の天覧山は展望台が足の踏み場もないくらい混むと聞かされ、代わりに提案された日和田山へ登ることとなった。また初詣については先に触れたように級友のかすみ達はケーブルカーで登るつもりでおり、徒歩での登山で彼女達をリードすべく支度を整えていたあおいは拍子抜けする。山登りでは準備をしてきたつもりでもトラブルが発生するものだが、トラブルと言うならこれらも十分トラブルであろう。そしてそもそも、トラブルはいつもと違う景色を見せるものとも限らない。
 

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ひなた「皆がいいなら登ってみてもいいんじゃない? 1号路なら道も舗装されてるし、大丈夫でしょ」

 

例えば、寝過ごして出遅れたあおいが日和田山で目にしたのは、日の出を見る場所がないほど人でごった返した鳥居前の様子であった。天覧山の混雑を聞いて日和田山へやってきたのに、そこでも待っていたのは同じような景色だったのである。また高尾山にしても初詣の時期はいつも以上に混雑しており、級友達はケーブルカーに乗るより早いのではと歩いての登山に予定を変更する。普段着で来ている彼女達を慮って選択されたルートは、期せずしてかつてあおいが登ったのと同じ1号路であった。
 

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あおい「人だらけ……」
ここな「見る場所がないですね」
誠「結局どこも混んでるな」

 

違う道を選べば違う結果が現れる、というほど世の中は単純ではない。むしろ違う道を歩いていても同じところにたどり着いてしまう場合の方がずっと多く、往々にして私達は自分が嫌う相手と同じ穴の狢だったりするほどだ。だが、それは悲しむべきことなのだろうか?
 
 

2.同じ景色に変わる時

私達は他者や過去と違う道を歩いているつもりでその実、同じようなところに向かっていることが少なくない。だが、だから見えてくるものもある。
 

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みお「坂きっつ……」
ひなた「ゆっくりで大丈夫だよ」

 

歩いての高尾山登山を選択したあおいの級友達は、あおい達ほど山に慣れていないため息を切らして坂を登ることとなる。特に級友の一人かすみはヘトヘトだ。だが、あおいはそんな姿に1年前の自分を重ね見る。彼女がかすみの荷物を持ってあげたり歩き方のアドバイスをしてあげられるのは、今のかすみが1年前の自分と同じようなものだからだ。
 

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あおい(なんだろう、大勢で同じものを待つこの一体感……)
 
和田山で日の出までまだ少しある時間を利用して山頂へ登り、どうにか足場を確保できたあおいはそこで一つの連想をする。大勢で同じもの(日の出)を待つこの一体感は富士山でご来光を待つのと同じなのではないかと連想し、一緒にいた幼なじみにして山仲間のひなたはそれを肯定する。昨年は高山病で富士山登頂を断念した彼女はしかしこの瞬間、それを成し遂げたひなたと同じものを幻視している。
 

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あおい「焦らないで。自分のペースで大丈夫だよ」
 
私達は通常、同じものを視覚しても同じように見てはいない。価値観や経験はもちろんのこと、見る・聞く・読むといった認知特性からして一人ひとりが異なっているのだから同じようには感じ得ない。けれど一方でこの異なるものの見え方故に私達は、違ったものを見た時に同じように感じることがある。天覧山と日和田山では見える景色も違うが初日の出という点では変わらないし、日和田山では日の出に間に合わせるために「急がば回らない」で近道を選んだあおいが高尾山ではかすみに「急ぐのが一番体力を奪っちゃう」とアドバイスするのも彼女がそれなり登山慣れしている表現としては同じだったりする。違っているはずのものが、ダブルスタンダードに見えるものが、奥深くでは案外同じであったりするのだ。もちろん逆に、言葉の上では同じはずが腑分けすれば正反対の意味を持っている場合もある。
 

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あおい「かすみさん。次も一緒のクラスになれるといいね」
かすみ「……うん」

 

初詣のお祈りの際、年度が代わって高校2年になっても皆と同じクラスでいたいと願うかすみに、あおいは次も一緒のクラスになれるといいねと返す。字面の上では同じはずのこの言葉はその実、同じことを意味していない。なぜか? それは二人の言葉の合間に、別の級友達がこう語っているからだ。
 

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みお「でもさ。クラスが分かれてもまた来ようよ、高尾山」
ゆり「じゃあ次も歩いて登らない? 今日すっごい楽しかったし」
ひなた「まあ次は別の山でもいいかもね、近場で他にもあるし」

 

どんな仲良しの関係も、ずっと同じでいられることはない。年度や進路などちょっとした区切りで道は分かれるし、クラス替えのように自分の意志ではどうしようもないことだってある。けれどそうやって変わってしまっても、分かれてしまっても、また一緒に集まれたなら。行く場所すら異なっていても、初日の出とご来光のように「同じ景色」を見ることができたら――その時、あおいとかすみ達は今と同じ関係を重ねることができる。学籍上のクラスは別でも、心の底では同じクラスにいることができる。「次も一緒のクラスになれるといいね」というあおいの返しはその実、クラスが違っても仲良しでいたいという意思表示であり、かすみの願いはこの時既に半分叶っていると言えるだろう。
 

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私達は同じものを視覚しても同じようには見ていない。けれど逆に、違うものを目にしても同じものを見ることがある。景色が同じものに変わる時、私達は時間も空間も、時には虚実や次元すら超えて他者と繋がることができるのだ。
 
 

感想

というわけでアニメ版ヤマノススメ4期の7話レビューでした。「温故知新」とか「未知と既知」とか浮かんだワードをまとめていくとこんな感じに。30分枠ですが話は2本立てということで、同じテーマを別の登山道=切り口で見せてくれるのがこの4期なんだなと感じます。なので自然とメッセージが染み入るというか。前後半での絵柄の違いも上手くコントロールされている感じで、改めて上質さを感じさせてくれる回でした。
 
 

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*1:前半の初日の出登山についてはあおいは「寒いし遠出したくない」とも言っている