勝利と敗北――「機動戦士ガンダム 水星の魔女」14話レビュー&感想

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破壊の「機動戦士ガンダム 水星の魔女」。14話ではスレッタとソフィの決闘が行われる。だが、これは今まで行われたような尋常一様の決闘ではない。
 
 

機動戦士ガンダム 水星の魔女 第14話「彼女たちのネガイ」

華やかなオープンキャンパスの裏で、スレッタはソフィが決闘を通して手に入れたいものを知る。
一方、事態に責任を感じるニカは……。
それぞれの想いや策謀が巡る中、バトルロイヤル方式の決闘イベント、ランブルリングの火蓋が切って落とされる。

公式サイトあらすじより)

 

1.ガンダムとは?

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ソフィ「あたしが欲しかったのは……!」
 
機動戦士ガンダム 水星の魔女」14話は同PROLOGUEに登場したエリクト・サマヤのその後や死人が出ることなど驚きの展開尽くしの回だ。出来事の多さに圧倒されそうになるが、一方であちこちでてんでバラバラの事件が起きているかと言えばそれも違う。この30分にもっとも多いもの、共通するもの――それは「ガンダムとは何か?」ということだろう。
 

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本作の世界、A.S.(アド・ステラ)におけるガンダムとは、GUNDフォーマットなる技術を使用したMSのことを指す。とはいえ主人公スレッタのガンダムエアリアルは作品世界のガンダムの常識に当てはまらない点が多く、この機体を一番目にする私達はどうしてもガンダムに対する認識がズレていってしまう部分がある。だがこの14話、私達はその錯覚を持ち続けることを許されない。
 

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ミオリネ「ガンダムの呪いの根源でしょ?」
 
今回の冒頭ではベネリットグループ総裁デリングとスレッタの母プロスペラが密かに進めていた「クワイエット・ゼロ」なる計画が明かされるが、これはGUNDフォーマットを利用して新たなネットワークを構築、戦争のない世界を実現するというもの。そんなことが可能になるのはGUNDフォーマットが超密度の情報体系を発現する力を持つためだが、元はと言えばこれはガンダムに乗った人間が過剰なほどの情報、データストームで廃人化する恐れがあるとして危険視された過去の裏面である。
 
 

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また舞台となるアスティカシア高等専門学園がオープンキャンパス期間中のこの14話では「ランブルリング」というバトルロイヤル方式の決闘イベントが開催され多くのパイロット・MSが出場しているが、その1人ガンダム・ファラクトを駆るエラン・ケレスは仲間から全力で行けよと激励されて内心こう毒づいている。
 

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エラン「全力出したら死ぬんだよ、こっちは」
 
エラン・ケレスはGUNDフォーマットに耐性を持つよう身体を改造された強化人士であるが、その耐性は完全ではなく出撃を繰り返したりGUNDフォーマットのスコアを上げれば死んでしまう欠陥を抱えている。故に彼は今回、苦しい状況になってもGUNDフォーマットに頼ろうとしなかった。
 
スレッタがエアリアルに当たり前のように乗っているために忘れがちだが、ガンダムは、GUNDフォーマットはあまりに危険な技術であることをこの14話はゆっくりと私達に復習させる作りになっている。そしてその総仕上げを担うのが今回の影の主役、ソフィ・プロネだ。
 
 

2.誰の決闘

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セセリア「緊急事態宣言、ランブルリングは直ちに中止! 戦術試験区域内にいる者は全員退避!」
 
ソフィ・プロネはガンダム・ルブリス・ウルのパイロットを務め、武装組織「フォルドの夜明け」に所属する少女である。同じくガンダム・ルブリス・ソーンのパイロットであるノレア・デュノクと共に学園に潜入し、連絡係のニカ・ナナウラを殺害しようとしたところをスレッタに見つかり彼女から学園のルールである決闘を申し込まれたというのが前回のあらすじだった。承諾したものの裏社会の人間の彼女がそのまま決闘をするはずもなく、ソフィは協力関係にあるグラスレー社CEOの養子シャディクの指示でガンダムに乗ってランブルリングに乱入、学園を大混乱に陥れてしまう。
 

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フェルシー「誰か! 先輩が死んじゃう、ラウダ先輩が死んじゃうよ!」
 
エキシビジョンマッチとはいえ、このランブルリングはけしてふざけ半分のイベントではなかった。開始前には、父ヴィムの死と兄グエルの失踪で明日からCEOになると決まっていたジェターク社のラウダ・ニールがスレッタへの闘志を燃やす様子なども描写されている。だがそんな彼の思いは突如現れたソフィのガンダム・ルブリス・ウルに踏みにじられ、彼は雪辱を果たすどころか生還すら危ぶまれる事態に追い込まれた。
 

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実戦仕様の2機のガンダムの乱入は、これまで学園で繰り広げられた決闘を嘲笑うようにその違いを見せつける。ビーム兵器の出力に上限は設けられていないし、危険箇所を狙えないようなレギュレーションプログラムも組み込まれていない。だから砲撃されればステージの防御機構はもたないし、MSも撃たれれば爆発して人が死ぬ。ルブリス・ウルの4連式ビームガトリングガンで空をディスプレイした内壁に走るノイズ描写は、決闘を描いてきた本作の世界観の揺らぎである。ただ、これが単なる戦争かと言えばそれも誤りだ。
 

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ソフィ「さ、決闘を始めようよ。おねえちゃん?」
 
ソフィは姿を現した際、スレッタに決闘を始めようと言っている。これはスレッタとソフィの決闘というより彼女達が背負うものの決闘……「戦争と決闘の『決闘』」なのである。当然それは、本作におけるガンダムの意義をも問い直すものだ。
 
 

3.勝利と敗北

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スレッタとソフィの戦いは尋常一様の決闘ではなく、「戦争と決闘の『決闘』」。そう解釈した時、今回の戦いは複数の色彩を帯びてくる。結果から先に言えば、最後まで立っていたのはスレッタの方だった。ソフィは人型ガンビット・ガンヴォルヴァを使用して優勢に立つも、エアリアルガンビットが空間内のGUNDフォーマットを掌握したことで状況は逆転。エアリアルの支配に逆らうべくスコアを上げて戦い続けたソフィは命を落としてしまう。……だが、これは本当に勝利だろうか?
 

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先に触れたように、これは「戦争と決闘の『決闘』」である。スレッタ達がこれまで繰り広げてきた決闘とは、ブレードアンテナを破壊すれば終わりの命の危険のない戦いだったはずだ。相手を死なせてしまったなら、それはもう決闘とは言えない。
 

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ノレア「気に病む必要はありませんよ。あなたが殺す前にソフィは殺された。あたしもいつかきっとガンダムの呪いに殺されます」
 
また前回決闘が成立した際、ガンダムをあくまで暴力マシーンとするソフィに対しスレッタはガンダムはGUND医療で人を救うMSになるのだと主張した。だがこの結果はどうだろう? ソフィの乗るガンダムは敵どころかパイロットすら殺す暴力マシーンであり、スレッタのガンダムは彼女を救うことはできなかった。
 

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ペルメリア「そんな……人間がMSに……!」
 
あくまで既存のガンダムが危ういだけだ、エアリアルはそうではない……そんな風にすがりたい気持ちを、本作は私達に許してはくれない。学園とは別の場所ではプロスペラとその後輩のベルメリア・ウィンストンが話していたが、そこではエアリアルの正体はプロスペラの娘エリクトであったことが――人間がMSになっていたことが明かされる。エアリアルは呪いを塗り替える革新的なガンダムなどではなく、むしろ呪いの極致とも呼ぶべきおぞましい存在であった。
 

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スレッタ「そうだよね。ニカさんもミオリネさんも、学園だって守れた」
 
事件が終わり、スレッタは戦いの結果を確認する。ソフィはニカどころかスレッタの"花嫁"ミオリネも殺害しようとしていたが彼女達の命の危険は去った。学園はテロリストを退けた。戦ったから、逃げずに進んだから彼らを守れたという点でこれは、12話でスレッタがミオリネを守るためにテロリストをエアリアルの手で叩き潰した時と変わらない。何も責められるいわれなどない。……だがスレッタは、それらを救うことはできていない。
 

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フロント職員「ニカ・ナナウラはどこだ? テロ等準備罪の容疑で拘束する。君達地球寮の生徒にも同行を求める」
 
貧しい身でアスティカシアに入学させてもらう代わりにスパイまがいのことをさせられていたニカはそれを打ち明けようとした矢先に行方不明になり、彼女と行動を共にしていた株式会社ガンダムの仲間にも嫌疑がかけられることとなった。また重体のデリングを見守ってスレッタと離れていたミオリネはその間にプロスペラに「クワイエット・ゼロ」について吹き込まれ、真の狙いを隠している彼女にいいように利用されそうになっている。学園にしてもあくまで工業拠点であるプラント・クエタが襲われた12話と異なり事故として隠蔽するのは不可能で、生徒達は以前のように過ごすことはもう難しいだろう。「根本を揺るがすような変化が起きたのに平静を保っている」13話に対し、この14話では「平静を保っているようで根本を揺るがすような変化が起きている」逆転が生まれている。表だったものが、裏返ってしまっている。
ガンダムとは決闘をするものか、戦争をするものか? 人を救うものか、暴力マシーンか? 少なくともこの14話において、前者だと答える人はいまい。命のやりとりではスレッタが勝っても、「戦争と決闘の『決闘』」として見た時に勝ったのはソフィの方であり、そしてそこには誰も幸せになった人間はいない。
 

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スレッタ「進めば二つ。お母さんの言う通り……!」
 
今回の決闘で、スレッタは戦争的に・・勝ってしまった。決闘の体現者であることができなかった。それは勝利であって勝利ではない。自分が敗北もしたと心のどこかで気付いているからこそ、母の言う通り二つを手にしたと己に言い聞かせながらも彼女は涙をこぼすのだろう。
スレッタは今回、進むことで勝利と敗北の二つを手にした。相反するようで矛盾しないその結果故に、今回の戦いは尋常一様の決闘ではないのだ。
 
 

感想

というわけで水星の魔女の14話レビューでした。ああ、ソフィが死んでしまった。破滅的な少女だったし納得の結末なのですが、それでも彼女に学校で過ごしてほしかった。ありえないのは分かっていてもスレッタに"決闘的に"勝ってほしかった。
 
殺意を持ったはずのチュチュがラウダの救援を求めるフェルシーの声に我に返って助けに行く描写といい、「撃てない主人公」を甘ちゃん呼ばわりしてきた往年のファンに振り返りを促す回だったと思います。「これでこそガンダム」とか得意げになってる場合ではない。かくいう私も前回の怪獣大決戦なMSとか今回の一般用ディランザやハインドリーの出番、チュチュのデミトレーナーの武器換装やファラクトの新武装に目を引かれもするんですが。その気持ちを否定せずとも、きっと自覚できるものがある。物語がこれからどうなるのか。今後にますます目が離せません。